鬼太郎くんのお家に遊びにいったら彼は小さな寝息をたてて寝ていた。
陽が差しているとはいえ、風は冬の便りを運ぶように少し冷たい。とりあえず自分の羽織っていたカーディガンを縮こまっている彼にかける。ふ、と私の目には鬼太郎くんのぷにっとしたほっぺたが映った。
(こんな無防備な鬼太郎くん中々見れないもんね…)
私はその魅惑のほっぺたへと優しく指を沈ませた。その温かく柔らかな感触に思わずにへらっとだらしなく笑ってしまったかもしれない。
まぁ、誰も見てないし鬼太郎くんは寝て……
「つづりちゃん」
寝ていたはずの彼の声に頭が現実へと戻される。閉じていた筈の鬼太郎くんの瞳は眠そうに開いている。
おまけにほっぺたをつついていた方の腕をいつの間にか掴まれていた。
「駄目だよ、そんな無防備な顔見せちゃ」
そう笑うと掴んでいた腕を離し彼はまた微睡みへと沈む。
そんな一瞬の出来事に何秒か遅れて自分の顔に熱が集まるのがわかった。そして改めて思う。
そうだ、鬼太郎くんは私より年上の男性だった。
詰まっていた息を小さく吐き出し、私は掛け布団を探すために立ち上がる。頬の熱はしばらく冷めそうにない。
【診断メーカーより】
貴方はつづりで『無防備すぎるのが悪い!』をお題にして140文字SSを書いてください
01/02 06:04
思えば獣として産まれひょんな事から妖怪になり、数奇な運命から神とやらになった私が人間など守れる訳がなかった。
何もかも中途半端だったのだ。流され生きて、何も考えずに辿り着いた先は偶像崇拝という名のただ其処に居ればいい存在。
いやに悲観的だって?
そりゃあそうだ。
だって私はカミサマの癖に人間を一人も助ける事が出来なかったんだもの。
07/24 02:39
私があの時、家に戻らなかったら。お父さんもお母さんも死なずにすんだのだろうか。
目の前で飛ぶ両親の首と身体。我も忘れて縋った先は娘を迫害された憎しみに狂う化物。
こうなったのは自分のせい。同じ化物になるのは道理。それでも願い続けている事がある。
どうか、私の前から愛がいなくなりませんように。私の初めて出来た友達をどうか誰も奪わないで。
それが叶うなら、私は進んで妖怪にもなるから。
07/24 02:37
あたしがこの世に産まれたことがもう、だめだったの。
母様はあたしを守ろうと狂いに狂って一族をぜんぶころしてしまった。
赤いかみ、赤い目は災厄のあかし。それがあたし。あたしがいけないの。
あたしがいなければ、菫はあんなすがたになることもなかったし、人間として生きていく当たり前のこともできたはずなの。
それでも菫はあたしにすがりついて泣く。
「いなくならないで、愛、お願い…。私の前から消えないで……」
そう思わせてしまったのも、あたしのせいなの。
07/24 02:37
もう人間を憎んではいないか、と問われるとどうしても言葉が詰まってしまうのです。確かに前世で受けた仕打ちは非人道的であり、人間の傲慢さと弱さで塗りつぶされた物でした。それでも、私は復讐をしたいとは思いません。だって今が楽しいから。憎しみ以上に今が愛おしいのですよ。
そう言うと、視線を私の背後から外した彼は「そうですか」と静かにその大きな瞳を伏せた。
07/09 03:56
吹雪の隙間から私が見た光はまさしく太陽の煌めきだった。ひどく懐かしく感じるのに、胸がきゅっと痛むのに、悲しいほどにそのぬくもりを私は思い出す事が出来ない。
自分に僅かに残った温度で、真下の雪が溶けている。そこに見える若い緑に顔を寄せた。涙が溢れる程愛しい、忘れてしまった匂いがした。
07/09 03:55
「今日はき、き、キスの日、だそうです…」
語尾はかなり小さくなってしまった。だって恥ずかしすぎる。
ネコちゃんとろくちゃんに言われて
「たまにはつづりちゃんから攻めなきゃ!」
と背中を押されたはいいが、蒼さんにはしたない娘だと思われたらどうしよう…俯いた顔をあげられない。
すると頭上から「なるほどなぁ」と呟くような声が聴こえたと思えば、顎をぐっと掴まれ上を向かされる。そしてそのまま唇にキスをされた。
蒼さんが顔を離し、真っ赤になって泣きそうになっている私の顔を見ると意地悪そうに笑った。
「お前からの誘いなんて中々ないからよ。この機会を逃すわけねぇだろ?」
07/09 03:54
僕の傍にはいつも父さんがいる。妖怪横丁の皆がいる。それが羨ましいとつづりさんは言った。
彼女が直接言った言葉ではない。つづりさんの後ろに憑いて廻る彼女が言う。
「どうして私は一人で沈まなければいけなかったの」
つづりさんと同じ顔をくしゃくしゃにして女が泣く。
「蒼坊主さん、蒼坊主さん」
何度も愛しい男性を呼ぶ姿はまるで兄を求める僕のようだと他人事のように思った。
07/09 03:52