小説・短編 | ナノ


「先輩ら卒業おめでとうございます。乾杯。」
「「「「「乾杯!!!!!!」」」」」

財前新部長の音頭で私達はグラスを合わせた。
今日で私達3年生は卒業になる。
全国優勝は出来なかったが3年間仲間と共に走り抜けてきた。
勿論悔しかったが後悔はなかった。
財前を初めとする後輩たちが来年こそ全国優勝をやり遂げてくれると信じている。

「マネージャーも迷惑かけたなあ、本間おーきに。」
「そんな事ないよ白石。私昔から間抜けなヘタレの面倒見てきたから。」
「ヘタレって言うなや!!」
「あれえ?私は謙也の事だなんて言ってなかったんだけどな?」
「うっ…」
「謙也、やめとけや。マネージャーに勝てるわけないやん。」

みんなが笑う。
いつものやり取りだが、今日で最後と思うと少し寂しくなった。

「まあ私はどーせまた謙也と白石とは一緒の学校だしなー。また3年間ヘタレと変態のめんどう見ないといけないのか…」
「マネージャーも大変やな、幼馴染みで慣れてるとは言え、こんなヘタレと付き合ってると。」
「は?」
「え?」

2人同時に声をあげる。

「そうッスよね。謙也さんなんてマトモにキスも出来ないんとちゃいます?」
「キ、キキキ、キスて!!な、なんて話しとんねん!!」
「ごめん、ちょっと話が、見えないんだけど。」

話に加わってきた生意気な後輩にやはり私と謙也は疑問の声をあげる。

「せやなー。普段どんな感じなん?」
「キスとか?いや、私達全くないけど…ねえ謙也。」
「せ、せやっ!!自分ら何言うてんねん!!」
「はあ?謙也さんキスも出来てないんすか?ヘタレっすわー。引くわー。」
「あかんて謙也!!せや、俺らが見とるからしてみ。」
「ええっすね。ちゅーうちゅーう。」

財前が白石に乗っかり煽る。しかし棒だ。やる気は感じられなかった。

「え、何で私と謙也がキスをする展開になってるの?」
「自分等ちょっと羽目外し過ぎやで!!や、やめえや!!」

これは、私と謙也がキスをしなければおさまらないのだろうか。

「謙也どうする?」
「ど、どうもこうも!!こいつら本間意味わからん!!」

肝心の謙也は隣で青くなったり赤くなったりしながら何かをいっているらしかった。
しかし動揺してか、口から出てくるのはほぼ意味のない音だった。

「謙也。」
「な、なん、」

謙也の口を私の唇でふさぐと同時に歓声があがる。歯がぶつかって痛かった。

「な、ななな、な、なななんなな、」
「謙也キョドり過ぎやろ。」
「先輩かっこいーっすわー。」
「あはは、どうもどうも。」

部員達の声援に適当に応える。おさまるかと思ったが、激しくなった。なんでだ。

「あ…アホーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

謙也は顔を真っ赤にして部室から飛び出して行ってしまった。
流石スピードスター。速き事風のごとし。あ、これは立海の真田くんか。

「謙也は本間ヘタレやなあ。」
「その上に何か乙女なんだよね。たぶんファーストキスは好きな人と満点の星空の下でとか素で思ってそう…悪いことしたかな…」
「え、自分ら付き合って…」
「付き合ってないけど。」

え、と部室の空気が凍る。

「先輩ら付き合ってなかったんすか?」
「いっつも一緒におったやん!!」
「そら家が近くてクラス同じで部活同じだったら一緒にいることになるでしょ。」

やっぱり私と謙也が付き合ってると勘違いしてたのか。
そんな誤解されるほど一緒にいたか?
いたか…

「ど、どないしよう、謙也に謝らんと。」
「あー、いいよ。私フォローしとくし。実際ヘタレなのは揺るぎない事実だし。ちょっと探してくるから皆は楽しんでて。」

焦り始めた旧部長を置いて部室を出る。
白石も変なところでヘタレだよなあ。








「謙也。」
「…っ!!」

謙也はコートの側にある水のみ場に隠れる様にしてうずくまっていた。

「謙也。」
「な、なんや…」
「謙也。誕生日、おめでとう。言うの遅くなってごめん。」
「え…?」

そうなんだ。卒業式で隠れてしまったが、今日は謙也の誕生日なんだ。
本人すら忘れていたようだけど。

「だからさ、さっきのは誕生日プレゼントとして受け取ってよ。可愛い幼馴染みのファーストキスなんだから、ありがたがってよね。」
「お、お前はええん?」
「私は謙也の事が好きだから嬉しかったよ。」
「え…はあ!?」

やっぱり気付いてなかったのか。
まあ謙也が私の事を家族のようにしか思ってないこと知っている。

「お、お前の事は…か、家族みたいに思ってて、そんな風に考えたことなかってん…」

ああ、やっぱり。

「うん、そうだろうね。」
「で、でもな、さっき、き、キスしてからな考えてん!!」
「な、何を?」
「キスされたの嫌やなかったし、そもそも俺、お前以上に好きになった女の子おらんかった。せやから…」

謙也は立ち上がって、私の手を取る。

「お、俺と結婚してください!!」

結婚なんて気が早すぎる。けど謙也らしい。
私が頷くと嬉しそうな謙也の顔が近付いてきたので目を閉じた。


キスから始まるスキ

君のとなり様へ提出しました。
素敵な企画をありがとうございました。




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