私が手塚国光と付き合っていて分かったことは、思いの外子供っぽいと言うことだ。
正確に言えば、我儘。頑固。
いい言い方をするならば、『自分の意思を曲げない』だろうか。
私が何を言っても、彼は自分を変えようとはしない。
肩を壊した時も、九州に行った時も、私は後から知らされるだけだった。
私がどんなに彼を攻め立てても彼は変わらなかったが、私を否定することも、別れを口にすることもなかった。
結局、いつも私が折れてばかりだったが、それなりに上手くやってきたはずだ。
告白したのは私からだったが、国光は好きでもない人間と付き合ったりしない。
私達はこのまま続いていくんだろうと漠然と思っていた。
私は彼が好きだから。
だから、電話越しに聞こえてきた彼の声は、まさに青天の霹靂と言えることだった。
「え、ドイツ…?」
「ああ。」
「それで、えっと、なんだっけ?」
「ドイツに行くから、別れてほしい。」
「何で?」
まだ泣くな。呆気に取られるのはまだ早い。
まずはこの男の真意を問い詰めないと。
「ドイツに留学するんでしょ?おめでとう。それでいつ戻ってくるの?」
「帰ってこない、かもしれない。」
「え?」
「プロになる為にあちらへ行く。いずれは戻ってくるかもしれないが、それが何年後になるかはわからない。」
ほら、まただ。
そんな大切な事いつ決めたの?
私にはなんの相談もしないで。私ってそんな相談も出来ないほど頼りないかなあ?
「ズルい…」
「…」
「ズルいよ!!国光はいつもいつも、そうやって独りで決めちゃってさ!!私の事を顧みてなんかくれなくて、私は、私だって…」
頭は混乱していたが、芯の部分が冷えていくようだった。
「あーあ、なんか疲れちゃった。いっつも私ばっかり慌てちゃってさ。」
何イヤミ言ってるんだ私は。
嫌だな。可愛くないな。
だから国光は私を置いて行ってしまうのだろうか。
「やっぱり何も言ってくれないんだね。そうやってさ、クールぶって。私の事をやり過ごそうとしてる。」
「そんなつもりはない。」
「はいはい。何て言えばいいかわからないんでしょ。色々考えてくれてるんだろうけどさ、言ってくれなきゃ…伝わらなきゃ意味なんてないんだよ。」
国光はいつも真剣に私の事を考えてくれてた…
らしい。
私は何も聞いてないからわからないが。それも今日で終わりなのか。
「もういいよ。終わりなんだよね。」
「…そうだな。」
「最後まで素っ気ないなあ…まあ、いいや…ありがとう。…好き、だったよ。」
「ありがとう。」
最後の電話は、中々切れなかった。
いつも国光の方から切ってくれるのに。
「国み、」
「名前」
「え、あ、はい。」
「ありがとう。好きだ。」
「…え」
私が言葉を発する前に、電話は切れてしまっていた。
何なのだ、最後のは。
私が決死の思いでわざわざ過去形にしてやったのに。
だいたい、始めて言われたぞ。
「好き」
なんて。
好きなんて単語知っていたのか。
そもそも私の事好きだったのか。
「ふっ…うぅ…ぅ…」
話してる時は平気だったのに今更涙が出てきた。
なんだなんだなんだなんだ。
なんなんだ、あの馬鹿は!!
やっぱり私の事が好きなんじゃないか!!
まだ過去形には出来ない。
直接会って、私も好きだと言ってやろう。
過去形にしなければならないなら、またその時考えよう。
ドイツに行くと言っていたからには、合宿所から一度帰宅するはずだ。
家の前で待ってたら遭遇するだろう。
私のしつこさを思いしれ馬鹿!!
好き!!!!
まだ現在進行形
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