小説・短編 | ナノ


最近知った事実によると、私は白石蔵ノ介の彼女らしい。

らしい、と言うのは、私に告白した、もしくは告白された記憶がないからだ。

確かに、私と白石は仲がいい。
クラスは3年間一緒。
委員会も一緒。
部活も一緒。
必然的に一緒にいる時間が長くなる。
そういえば、休日も連れだって出掛けることが殆どだ。

それを苦痛に感じたことはない。今となっては、逆に隣にいない方が違和感を感じてしまう。

友達に言わせると、「それはもう付き合っている」そうだ。

実際白石に聞いてみると、「まあ付き合ってるんちゃう?」と返されてしまった。
疑問系なのは少々腑に落ちないが、否定する言葉を持ち得ないと言うことは、きっと私は白石の彼女なのだろう。

それが、今日の朝練の前の話だった。


「なんや、不満そうやなあ。」
「え?」

眉間にしわよってんで、とぐりぐりと押される。

白石の手を払い、反対側を向けば、後ろから笑い声が聞こえてきた。

その白石を余所に、私は少し歩調を早めると白石も直ぐに追い付いてくる。
なんて事はない、いつもの帰り道だ。

「でも、本間に様子おかしいで、どないしたん?」
「どないもこないもないんだけど、ただ…」
「ただ…なんなん?」

なんなんだろう?
私と白石が付き合い始めたのは、きっと昨日今日の事ではないと思う。
白石もいつもと全く変わらない。

私が意識し過ぎなのだろうか?

「ちょっと男女交際とはどういうものかと考えていただけ。」
「えらいまた壮大な事考えてるなあ。何かわかったん?」
「よくわからないと言うことがよくわかったよ。」

なんやそれ、とやはり白石は笑うだけだ。
考えるのが馬鹿らしくなってきた。もうやめよう。考えたとこらで、どうせ事実はかわらないだろうし。


「名前は、俺と付き合うの嫌なん?」
「え!?」

考えるのをやめようと思ったのに何故その話題をふる。
「嫌とかじゃないんだって。ただ、ホントよくわからなくて。そもそも、いつから付き合ってたかもわからないし。白石もいつもとかわらないし。」
「ふーん、」

そうか、と言い白石は黙ってしまった。
変な事を言ってしまったのだろうか。

二人で無言のままひたすら歩く。

ああ、もう別れ道だな。


「名前」
「え?」

唇に何か降ってきた。


白石は目を閉じている。
ああ、やっぱり至近距離で見てもイケメンだな。引くくらい。

一度白石の顔が離れ、また近づいてくる。
今度は私も目を閉じた。

ああ、私、白石にキスされてるんだな。
不思議と冷静で、別に嫌でもなかった。


長いか短いかわからないが、暫くすると白石は離れた。

「好きや。」

白石の顔は今まで見た事が無いくらい真っ赤で、テニスの試合の様に真剣だった。

「名前が、好きや。ずっと前から好きやった。せやから、よかったら付き合って下さい。」

顔が熱い。
おかしいな、さっきまで冷静だったのに。
白石もいつもと変わらなかったじゃないか。

きっと私も白石の様に真っ赤になっているだろう。


また明日返事聞かせて、と小さい声で言うと白石は走り去ってしまった。


返事も何も、決まってるのに。
だって私は、

あなたの彼女




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