私の恋人である白石蔵ノ介は優しい。
私の染髪で傷んだ髪を、いつもキレイキレイと撫でてくれる。
テニスをしていてごつごつしているけど大きく包んでくれるその手が、好きだ。
慈しむように見つめてくれる瞳が好き。
たとえ、蔵ノ介が私のことを愛していないとしても。
「あらぁ〜ん、蔵リンの彼女やん。こんな所でどうしたの?」
「ちょっと遅くなったから蔵ノ介を待ってようかなって。」
「あら!!健気ねえ、カワイイ!!」
「小春!!浮気か!!」
部室の前で蔵ノ介を待っていると、金色くんと一氏くんが出てきた。
一緒に帰るんだろうな、仲いいし。
「蔵リン今部誌書いてるから、中入って待っとく?」
「や、邪魔になるので私はここで。」
「そう?じゃ、ウチらは先失礼させていただくな、ほなまた。」
「小春、はよ行こう。」
さよなら、と私が告げると笑って彼らは帰っていった。
その後も、何人かの部員が出てきたが、蔵ノ介はなかなか出てこなかった。
仕方ない。
言ってなかったし。私が勝手に待ってるだけだものね。
仕方ない。仕方ないの。
蔵ノ介は部長だから、やらなきゃならない事が沢山ある。
でも知っているよ。
私が見たこともない表情を、彼に見せているのでしょう?
「なんや、待っとったんか。」
どれくらいそこにいたのか、気付いたら完全に日は沈んでいて、辺りは完全に暗くなっていた。
本当に、どれくらい待っていたのだろう。
蔵ノ介は少し困った顔をしている。
私がこんな時間までいるとは思っていなかったのだろう。
私もこんな時間まで待たされるとは思っていなかった。
「あー、俺も校門で彼女待ってるらしいから先行くな。」
「お疲れ謙也、また明日な。」
「蔵もお疲れ。」
忍足くんは驚くような速さで走って行った。
「浪速の〜」と何か言っていた様な気がしたが、直ぐに聞こえなくなった。
「帰ろか。」
「うん。」
蔵ノ介が私の手を取る。
痛い、よ。
何時もより握る力が強い。
忍足くんが彼女の事を出したからでしょ?
わかってるよ。
忍足くんと、部室で2人、何をしていたの?
部活が終わってから大分時間がたったのに、上がってる息、汗。
…顔も少し赤いよね?
私は知っているんだよ。
「蔵ノ介好きだよ。」
「ありがとう」
私が言う「好き」と言う言葉に「好き」って返してくれたことあったっけ?
それでも握る手が包み込む様に優しくなって。
私の金髪を慈しむように鋤いてくれる。
そして私は今日も何も言えなくなってしまうんだ。
ついでのような優しさなんか
いらない。
そう言えない私は蔵ノ介に恋をしている。
企画されど彼は様へ提出しました。
素敵な企画をありがとうございました。
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