小説・短編 | ナノ


俺の誕生日が近い。
そんなある日、愛しい彼女が俺にこう言ったのだ。
「誕生日、お家に遊びにいってもいい?」
と…

これはつまり、プレゼントは私よ(はーと)と受け取っていいのだろうか。
エクスタシーなのだろうか。


「謙也はどう思う?」
「しらんわ!!勝手にやってろや!!」

立ち上がって部室を出ていこうとする謙也の腕を掴み再び座らせる。

「相談があるから部室に残ってくれって言われて、結局これかい!!本間付き合いきれん…」
「お前の恋愛相談にものってやったやんか。ちょお話聞いてや。」
「まあ相談はしたけど結局その子は白石が好きで白石と付き合うことになったけどな…」
「その節は大変お世話になりました。」
「おいいいいい!!!!」

謙也から罵詈雑言が聞こえる気がするが、そんな事気にしていられない。
とにかく今は彼女の事だ。

「それで名前なんやけどな。」
「お前本間人の話聞かんとはっ倒すぞ。」
「俺かて悩んでんねん!!後で話聞くから話聞いてくれ。」
「ああ、うん…で、どうなん?」

なんだかんだと言いながら、結局謙也は聞いてくれるらしい。
いい奴過ぎて足を向けて寝にくい(寝れないとは言わない)

「誕生日に名前が来てくれんねん。せやからヤろうかと思ってな。」
「そんな決意表明聞きたなかった。つーか好きにすればいいんちゃう?」
「やっぱりそう思うか!!よし、待っとれ名前!!エクスタシー!!!!」

謙也のため息なんか聞こえない。




「おじゃまします。」
「どーぞどーぞ。」

そして当日。
ついに名前がやってきたっちゅー話や!!
俺の好きな若草色の、春らしいワンピース。
長い髪から仄かにシャンプーの香りが伝わる。

んんーっ ああーっ エクスタシー!!

「今日誰も家におらんし、ゆっくりしてってや。」

なんだったら泊まっていってもええんやで、とは口にしない。
まあ泊まっていく流れにすればいいだけだ。
土日を利用して家族には親戚宅へ行ってもらっている。

「え!?お家の方誰もいないの!?」
「せやで。ふたりっき、」「お誕生会は!?」
「は?」

お誕生会?

「ご家族とみんなでお誕生会!!普通するでしょ?」

それは小学生までじゃないか…?

「俺は、名前に祝ってもらえればそれが、」

一番嬉しい、と繋げようとしたが二の句が告げず。
俺は、ギョッとした。

名前の大きな瞳から大粒の涙がポロポロ流れてきたからだ。

「ど、どないしたん!?」
「だ、だって…今日は…」

しらいしくんのたんじょうびなのに、とゆっくり喋る。

とりあえずこんな所(玄関)にずっといても難なので、リビングのソファーに座らせた。

自分の部屋は…な。
我慢できるかわからんし…な。


「どないしたん?」

隣に座って落ち着かせるように頭を撫でる。
まだ目が赤いが、とりあえずは泣き止み、俺に身体を預けてくれている。
やっぱり自分の部屋にしなくて正解だったな。

「子供っぽいって、思われるかもしれないんだけどね…」

ぽつりぽつりと話してくれる。

「今日は白石くんの誕生日だから…生まれてきてくれてありがとうって伝えたいの。」
「うん。」
「それでね、ご両親に、生んでくれてありがとうございますって伝えたかったんだ…」

名前は俺の誕生日に感謝をしてくれたんだ。
俺だけじゃない、俺の親にもありがとうと伝えようとしてくれていた。

なんてあたたかくて優しいのだろう。

「すまんな、家族誰もおらんくて。そんな風に思うてくれてるなんて考えてもみんかったわ。」

まさか疚しい事を考えて追い出したとは言えない。

「ううん、私こそ、突然押し掛けたんだもん、いらっしゃらなくてもしかたないよね…」
「また今度は皆おる時に呼ぶから、そん時はよろしく頼むわ。」

将来白石になりますってな、と言うと恥ずかしそうにしながらもやっと笑ってくれた。

「俺、まだ一番大切なこと聞いてないんやけど。」
「そうだよね、えっと」


「白石くん、お誕生日おめでとう!!」


きみのにサンキュー!!




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