小説・短編 | ナノ


「先輩…」
「何、越前く…ああ!!また撮れてない!!」
「先輩、うるさいっス。」

ごめんごめんと言う先輩は全く反省している様子が無く、視線はカメラのままだった。

「いい加減諦めたら?」
「それは出来ない。私は全校生徒の期待を背負って立っているのだよ…またダメだ!!」
「だから静かにしてってば。」

放課後の図書室で、何をしているのかと問いかけたら隠す素振りも見せず「隠し撮り!!」と宣ってきた。
隠し撮りならオレからも隠れてほしい。頼むから。



写真部部長兼図書委員長であるこの先輩は特権を行使し、現在オレを人質に図書室に立て籠っている…
と言うのは冗談で、オレだけ引きずり込んで図書室を立ち入り禁止にして隠し撮りに勤しんでいる。

隠し撮りしているだけならオレは必要ないだろう。
早く解放してほしい。部活がある。暇ではないんだ。

「ちょっと位騒いでもいいじゃーん。どうせ立ち入り禁止にしてて誰も入ってこないんだし。」
「はあ…オレもう部活行っていい?」
「ダメー。今日昼休みの当番サボったでしょ?大人しく見張りをしてなさいな、直ぐ終わるから。手塚にも越前くん借りるって許可取ってるし。」

オレは見張りだったのか。
と言うか、隠し撮りなんて疚しい行為しなければいいのに。

「なんで隠し撮りなの?」
「よく分かんないんだけどね、手塚を撮ると消えるのよ。」
「はあ?」
「いやね、はあ?って聞きたいのはこっちなのよ?何でカメラに写んないの?これが手塚ファントムなの?」
「知らないっスよ。」
「その手塚、消えるよ。」
「不二先輩っぽく言われても。」

こうして会話をしている間も、先輩はシャッターを切り続け、「あー」とか「うー」とか唸っている。
どうやら上手く撮れていないらしい。

「そもそも何で部長の写真がいるの?」
「手塚ファンの子達の期待に答えてるのよ。手塚会長素敵…!!せめてお写真だけでも欲しいわ…!!みたいな。手塚の写真が販売できれば部費が今の3倍にはなる…おっとっと。これ以上は言えねーな、言えねーよ。」
「いや、もう殆どこぼれ出てるから。」

ようするに、手塚部長の写真を売って稼ぎたいのか、この人は。
ちゃっかりしてるな…

「私だってね、色々頑張ったのよ。写真売りたいから撮らせてくださいってお願いしたり。断られたけど。」
「当たり前じゃん。」
「プリクラ撮ろうぜって誘ったり。断られたけど。」
「部長がプリクラって恐ろしく似合わないっスね。」
「堅物なんだから!!彼女が出来て、そして「ツマラナイ男」って言われてフラれろ。けっ。」
「先輩、本音が出てる。」

毒を吐きながらも先輩は撮影を続けている。
口さえ開かなければ真剣な横顔は嫌いじゃない。
カメラ自体が好きなのだろうか、ファインダーを覗く瞳は誠実そうに見えた。
ホント、喋らなければいいのに。

「越前くん、本音が口から溢れてるよ。」
「正直ですいません。」
「おっとっと、声から反省が微塵も感じられないのは何故だろうな。まあ許そう。かわりに不二のいいショットが撮れた。これはなかなかいい腹チラ…ぐへへ。」

何やら不穏な事を呟いているが、気にしない方がいいのだろう。
というかこの人、部長以外も撮っていたのか。

「部長以外も撮ってるんスか?」
「うん、テニス部レギュラーはやっぱり人気あるからさー。河村や乾も隠れファンが多いのよー。菊丸動き早すぎてめっちゃブレてる…」
「オレは?」
「え?」
「オレの写真は撮ってくれないの?」

シャッターを押す先輩の指が初めて止まった。

「越前くんは、撮りたくない。」
「え、何でオレだけ仲間外れなんスか。」
「ど、どうしても!!もう、今日はこれで終わりにするから部活行っていいよ。」
「ちょっと待ってよ。」

慌ててカメラを片付け様とする先輩の腕を掴む。

俯いてるからよくわからないが、耳が赤い。顔も真っ赤なんだろうな。

「オレ、先輩にだったら撮られてもいいよ。」
「だ、ダメ!!」
「なんで?」
「ほ、他の人に見せたくないんだもん。」

消え入りそうな声で呟く。
さっきまでの大声は何処へ行ってしまったんだ。

でもまあ、そんな先輩も可愛いから許す。
なんかオレらしくないけどさ。

「写真売らなければいいだけじゃない?」
「ああ!!あったまE!!」

この人はもしかしなくてもバカなのか。


アルバムはでいっぱい


ユートピア様へ提出。
素敵な企画ありがとうございました。





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