小説・短編 | ナノ


図書室からはテニスのコートがよく見える。
本が陽をあびて痛まないようにいつもカーテンが閉められているから、あまり知られていないが。

先輩は、放課後人が来ないのを良いことによくここからテニスコートを眺めている。
窓際で頬杖をついて、少しオレンジになった光にてらされて。素直に、綺麗だと思う。

「先輩」
「人が来たらちゃんと仕事するから、もうちょっと。」

視線はコートから外れることはない。
いや、正確にはコートではなく、たった1人を見つめている。
いつもそうだ。このカウンターでも、コートから見上げても先輩と目があったことは一度だって無かった。

「先輩…」
「九州、行っちゃうんだね…」

寂しそうに呟く。
独り言で、きっと俺に喋りかけたわけじゃない。
だから俺が応える必要はないんだ。


ねえ、俺もさ、全国大会終わったらアメリカに行こうかと思ってるんだ。
同じ様に寂しがってくれる?


俺は先輩に近付いて誤魔化すようにポニーテールを引っ張った。
怒った先輩が俺を見る。

やっと目があった。


視線ののひと




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