小学校の時好きになったみさきちゃん。あれは確か2週間で好きじゃなくなった。中学の時好きになったあやかちゃん、あれは3日だった。
今度は隣のクラスの女の子。今回もまた長続きはしない。きっとそうだ。
だからわざとらしく呆れた顔をつくって如何にもまたか、なんて言い出しそうな雰囲気をつくる。



「またか、って言い出しそうな顔!違うからね!今回は本気だよ!」

「はいはい、この間も同じ事言って一週間もたなかったよね」

「今回はマジだから!本当に好きだから!」



そんなに本気だ、なんて聞きたくないのに。耳を塞ぎたくなって、あたしにしなよ、なんて口走りそうになって。もういっその事伝えてしまおうか。
そしてあたしの事で散々悩ませてしまおうか。それももしかしたらいい案なのかもしれない。もうやけくそになっていたんだと思う。



「ねえ、かずお。大事な話があるんだけど」

「何?なんか深刻そうな顔してんね」

「あたし、あんたの事、」



好きなんだよね、と口にしそうになった時背後から聞こえたあたしとかずおを呼ぶ声。振り返れば見慣れた茶色の天パの姿。
はっ、とした。あたし今とんでもない事言おうとしてた。馬鹿じゃないの。今此処でかずおに好きだ、なんて伝えたら困らせてしまう。あたしは汚いからきっとかずおの幸せを、恋が実る様に、なんて思う事は出来ないけど、せめて影で応援して支えていなきゃいけないのに。



「あっぶねぇ、セーフ?」

「セーフセーフ!ユキトお前いい加減遅刻癖なおせよ!」

「うるせー!かずおだって空音ちゃん居なきゃ起きられないくせに!」



ぜえぜえ、と肩で息をしているユキト君をかずおは笑う。どうも今のあたしでは一緒に笑い合う事が出来なくて。嫌な奴だと思う。



「そんな事より聞いてくれよ!学校来る時嫌な奴に会ってさ!」

「嫌な奴?」

「なんか不良に絡まれてる奴が居たからさ!助けてやろうとしたら余計なお世話だとか言って突き飛ばされたんだよね!」

「ユキトの天パが怖かったんじゃない?」

「言うけどお前のもじゃもじゃのが怖いからね」

「うるせーよ」

「空音ちゃん?なんかあった?あんまり喋んないけど…」



急に話を振られ、驚いて顔を上げてしまうとかずおと真っ先に視線が合ってしまって。慌てて視線を外した。
こっちに向けられるかずおの視線がどうも居心地悪く、その場から離れたくなって。なんでもないよ、と無理に笑顔を作るのが精一杯だった。



「空音ちゃん、やっぱりなんかあ」

「あ!あたし確か先生に呼ばれてたんだった!じゃあまた後で!」



用事なんてないのに嘘を一つついて、急いでその場から離れた。
後ろから名前を呼ばれたけれど聞こえないフリをした。2年の初日からこんなんで、情けないなあ。今更悔やんでも仕方ないのに。
行く宛なんて端からなくて。適当に足を進めていたら、いいかんじに一人になれそうな中庭を見つけた。



「この学校に中庭なんかあったんだ…」



ここなら声を上げて泣いても大丈夫な気がした。
HRはサボろう。もともとあたしは成績も出席日数も良い方だからちょっとぐらい平気だろう。
一瞬気が緩んだ途端涙がボロボロこぼれてきた。
みさきちゃんの時もあやかちゃんの時も確か泣いてたな、なんて不思議なくらい呑気に考えてて。



「あ、く…ッ」



ボロボロこぼれ始めた涙はもうきっと止められない。別に人なんて居ないから大丈夫、なんて油断してたのがいけなかった。
近づいてくる足音なんか気づく訳なくて。



「なに?あんた泣いてんの?」



時が止まった気がした。ついでに涙も止まった。
なぜか隣にどかり、と腰を下ろした名前も知らない奴。黄色のパーカを着て、髪をピンでとめている。顔は整っていた。
気が遠くなりそうになった。名前も知らない人に、初対面の人に、あたしの酷い泣き顔を見られるなんて。



「あの、」

「慰めてやろっか?」

「はい?」



その人はニカリ、と歯を見せて笑う。意味が分からなくて呆然としてるあたしをよそにさっさと話せと急かす。ちょっと待て。意味が分からなくなってきた。なんであたしが見ず知らずの奴に失恋した、なんて言わなきゃならないんだ。



「嫌ですよ」

「な、なんでだよ!」

「いや…、なんでって、いきなり知らない人にそんな複雑な話出来ないですよ」



まじでか、と俯く。何でか分からないけど落ち込んでるみたいで。本当に訳が分からない。
どうしようか、と思っていたらぽつりぽつりと話だした。



「…俺、友達少ねーんだよ」

「そ、そうなんですか」



だから人との接し方とかよく分からない、と言う。
なんだかシビアな話になってきたぞ。
あたしの失恋話なんかこの人の足元にも及ばないほど、どうでも良い事なんじゃないか、と思えるくらいに。




「よかったら、話聞きましょうか?」




ああ、あたしはなにをしてるんだか。






出会いは突然に
(本当は慰めてほしかっただなんて、今更もう遅い)





2011/1028
ヒカルんの性格違うかも。ごめんなさい。

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