「空音ー!あの女の子可愛くね?可愛いよね!?ちょっと声かけて来ようかな〜」



今あたしの隣で、目の前の女の子を指差して興奮してるのは幼なじみのかずお。ついでにあたしの好きな奴だったりする。
普段はモジャモジャで顔なんか全く分からない。でもその素顔を唯一知ってるのはあたし。その顔が案外整ってることを知ってるのも勿論あたしだけ。
これだけで、他の人よりずっとかずおの事を理解してるみたいで。自惚れてると思う。
いまだにあの子可愛いよね、とギャーギャー騒ぐ幼なじみの頭を思いっきりひっぱたいてさっさと歩けと渇をいれた。



「あーもう!今日は遅刻出来ないんだからさっさと歩きなさいよもじゃ男!」

「そんなに忙がなくても学校は逃げねーよ」

「だから遅刻するっつってんの!誰かさんが寝坊したおかげでね!」

「…ハイ」



そうだ。今日はクラス替えがあったり2年になって初めての登校日だったりと色々忙しい。
なのにこいつときたら。思わずため息が零れた。それをしつこく指摘してくるかずおの腕を掴んで足早に通学路を進む。
痛い、と騒いでる声なんて無視だ、無視。



「あれ、そういや今日クラス替えあるよな」



今思い出したのか、呑気にそんな事を口にしたこいつに呆れて声すら出なかった。
痛い意外の声がやっとしたと思ったらこれかよ。それに気づかなかったらきっとこいつは一年のクラスに向かっていただろう。必死にかずおを起こして良かったと心底思った。



「かずおって本当に馬鹿だよね」

「ひっでぇー!」

「まぁ、あんたはあたしが居ないと本当にだめだもんね」

「あー、そうだよなー!確かに俺には空音居ないと駄目だわ!また同じクラスになれますように!」



ずるい、と思った。単純で馬鹿なかずおの事だ。きっと口にした言葉の他に別の意味なんて無いのは分かってる。なのに自然と赤くなる頬をあたしにはどうにも出来なくて。
呑気に顔赤くね?なんて聞いてくるこの鈍感をどうしたらいいのやら。

さらに歩く速度を上げてみたら、少し冷たい風が顔に当たった。どうにか学校につくまではこの顔の熱が冷めてる事を願うしかなかった。


───……




「うっわ、人ばっか…」

「そりゃみんな、自分のクラス知りたいもんなー」



顔の熱もなんとか冷め、かずおと他愛のない会話をしながら校舎の中にある掲示板に向かっていた。
だんだん掲示板に近付くにつれ人の量が増えていくのに嫌気がさす。
あの人だかりに入って自分がどのクラスなのか確かめに行かなければならないのか。



「嫌だなー…」



なんて口にしてしまえば、かずおは空音は人だかり苦手だもんな、と笑いながらあたしの腕をとった。
何かと見つめれば、はいはい通りますよー、と声を上げ人を掻き分ける。
あー、もうそういう優しいところとか本当にずるい。キュン、なんてきてしまった自分が嫌になる。
うるさく鳴る心臓をどうにかおさめようとしていたら隣で、あっ、と間抜けな声がした。こんなにあたしがあんたの事で葛藤してるのも知らないで。



「…何?」

「俺たち同じクラスだ」

「えっ!本当に!?」

「本当本当!あとユキトも一緒!やった!最高じゃん!」



ユキト、というのは中学からの同級生だ。
あたし達3人は所謂仲良しグループみたいなもんで常に3人で行動してる。
いまだに大袈裟に喜んでるかずおを邪魔になるからと人だかりの中から引っ張り出した。



「あんた人に迷惑かかるとか考えた事無いわけ?」

「ごめんごめん!さてそんな事より可愛い子探しするかなー!」



またはじまった。
その場でキョロキョロ女の子を見つめるかずおの頭をぶん殴ってやりたい衝動に駆られる。ぶん殴ったところでこの女好きは一生治らない事はあたしが一番理解してるんだけど。
いいから行くよ、とかずおを見ればどうやら様子が可笑しく一点からずっと視線を離さない。

なんだか嫌な予感がした。

その一点を追って見てみればピンク色の髪を2つに結んだ女の子の姿。顔は見るからに美少女と分かる。
頭の中で警報が鳴った。
かずおはただ可愛い女の子見つけただけだよ、別にそんな訳ない。



「ねえ空音、あの女の子の名前分かる?」



分からない、と出た声はきっと震えてた。


だって貴方の横顔が恋をしてたから。




幼なじみがもどかしい
(ねぇ、あたしは結局幼なじみでしかないの?)





2011/1019

next→音色