かずおさんと空音ちゃんも仲直りして、ユキトさんとヒカルくんも最近仲良しで。めでたしめでたしって思っていたそんなある日。


「杏ちゃん、今日一緒に帰らない?」


イケメンオーラを放ちながらあたしを呼び出したのは隣のクラスのかずおさん。なぜ私を?と疑問が浮かぶ。そんな私を悟ってか、かずおさんは慌てたように付け足した。


「あっと、えっと、ユキトはヒカルくんといちゃいちゃしてるし、空音は委員会で忙しいみたいだし俺は1人で帰るの寂しいし…だからもし良かったらって思って」


なるほど、と心で頷く。こういう彼の子供っぽい一面に空音ちゃんも世話を焼いているんだろう。まるでお母さんだな、なんて笑みが零れた。


「もちろん良いですよ」

「ほんと!?やったー!」


よほど寂しかったんだろう。飛び跳ねる勢いで歓声を上げたかずおさんは「それじゃ、HR終わったら迎えに行くね!待っててね!」と手を振りながら走って行ってしまった。

これが朝の昇降口での会話。


………
……



今日かずおさんと帰るんですよー、なんて世間話と同じ感覚で話をしていたら今まで黙って聞いていてくれたヒカル君が目を見開いた。


「おいまじか、桜井!」

「え? はい、そうですけど…」


そう返事すれば、拍子が抜けたような顔。この人は何を考えているんだろう?よく分からないけど、なんかブツブツ呟いてた。


「おい桜井…」

「なんですか?」


深刻そうな声音で呼ぶのでこっちも真面目に返事したら、唇に拳を当て押し黙るヒカルくん。そして、なんでもないと一言。


「変なヒカルくん」

「なっ…。変じゃねーよ!元気!俺元気!」


やっぱり変だなあって思った。
始業のチャイムが鳴ったので席に着こうとヒカルくんから離れる。去り際、ヒカル君はスマホを弄っていた。指のスライドがすばやいところを見るとメールかツイッター? まあどっちにせよ、私には関係ないです。










HRが終わり次第昇降口で待ち合わせ、という約束で、先に着いたのは私だった。いっぱい人はいるけど見知った人はいない。私の交友関係のなさに苦い笑みが零れた。


「あー、杏ちゃんお待たせー!」


大きく手を振りながら現れるあのもじゃヘアの男子は紛れもなくかずおさん。待ってませんよ、と言うとそっかと笑った。私も笑う。


「じゃ、行こっか」

「はい」


ただ帰るだけなのに、なんかちょっと照れくさいな。かずおさんの顔を見ると、目は窺えなかったが赤面しているように思えた。


………
……



昨日の音楽番組の事、最近話題のお笑い芸人の事、あとは今日の天気の事。ほんとに他愛のない話をしながら歩いてきた。でももうその話も終わりなわけで、つまりは私の家に繋がる横断歩道まで来たということで。


「今日はありがとうね。おかげですっげえ楽しかったよ。また明日」

「はい。こちらこそありがとうございました」


片手をひらひらさせ、横断歩道を渡ろうとしたけど生憎信号は赤。ちょっとだけ沈黙になった。


「あっ、あのね、杏ちゃん」


顔を向けると目を泳がせるかずおさん。なんですか?と微笑むと彼は下を見る。


「俺、…杏ちゃんが好きなんだ!」


意を決した真っ赤な顔。ちょっとびっくりした。まさかそんなこと言われるなんて。でも私の答えも同じで。でもそれはかずおさんに限定したことじゃなくて、空音さんも、ユキトさんも、ヒカルくんも。
みんなみんな、大好き。みんなお友達だもん。


「私も好きですよ」

「えっ…ほんと!? やったーー!」


大声で喜ぶかずおさんを迷惑そうに横目で見る通行人。でもそれに気付いていないかずおさん本人。
信号を見ると青になっていた。





輪廻する勘違い
(大きく食い違った勘違いに気付く者はまだいない)






13.0311
明けましておめでとうございます。3か月ぶりです。
気が済むまで罵って下さい。