別にあのもじゃ犬を友達とかそんな風に思った事は一度もない。電話もするし、顔を合わせれば少し会話するぐらい。そのほとんどが喧嘩に近いが。
本当にその程度の仲なんだ。確かに憧れてはいた。だが憧れと友情を一緒にしてしまうほど俺も馬鹿ではない。仲良く、なんておこがましいにもほどがある。俺なんかがあいつと、



「ヒカル君って最近ユキト君と仲良いよね」

「は?」

「あれ?違った?」



桜井はにこにことそう言った。仲良い?俺とあの犬が?ありえない。そもそもあいつと俺は友達ではない。ではなにか、と聞かれれば答えに困るがそれでもやっぱり友達とは呼べないだろう。
あいつの相談にものるし、暇な時俺からも電話をする。喧嘩だってしょっちゅうだし、だけど一緒にいて嫌だとは思わない。むしろ気を使わなくていいから楽なんじゃないんだろうか。
結局あいつと俺ってどういう関係なんだ。



「わかんねえや」

「そっか、でも私ヒカル君とユキト君を見てたら仲良しだなーって思ったよ」

「そっか」




桜井は相変わらずにこにこと笑っていた。

俺は中学の三年間ずっと一人だった。友達のつくりかたなんかもうわかんねえ。正直人と話してても愛想笑いや人と合わせるなんて事は出来ない、だからあまり人も寄って来ない。尚更の事だ。

今現在、この高校で唯一出来た友達は空音ただ一人。あいつが俺を友達と言ったから。
相手が俺をどう思ってるか、それが分かってはじめて友達だと胸を張って言える。つまりユキトが俺をどう思ってるか、それが分からなければ俺はなにもわからないのだ。
今までなぜそんな話をしなかったのか。あいつが俺を他人だと言えば俺とユキトは本当に他人になってしまう。それが嫌だった。何故か、わからない。なんで嫌なんだ?
次の授業を知らせるチャイムが聞こえる。俺は机に突っ伏し、眠ることに集中した。




昼休み、俺はいつもの中庭で購買で買ったパンを頬張りながらそこで寝そべっていた。
結局あのまま眠れるはずもなく、俺はもんもんとユキトと俺の関係について考えていた。考えても答えなんてでるはずないのに。自分でも馬鹿だと思う。
もうこんなに悩むくらいならいっそのこと聞いてみるか。だが、そんな事を聞けば俺を馬鹿にするユキトが目に見える。想像しただけでこんなに腹が立つのだから実際はそれの倍イライラするのだろう。わざわざストレス溜めに聞くのは馬鹿だ。だけどこのままでも、もやもやは増すばかりだし、




「ああ、もう!!わっかんねえ!!」

「何がわかんねえんだよ」




最悪のタイミング、とはまさにこの事だろう。いつから居たのか、何故わざわざ気配を殺して来るのか、お前は忍者代表か。色々文句を言いたかったが、俺見下ろすユキトはそんなことには気づいてなく、呑気に隣に座った。
ユキトはガサガサと白いビニールからパンを取り出す。俺が今食べてるパンと同じだったのに若干苛立った。




「で、お前は何をそんな悩んでんだよ」

「悩んでねえよ」

「‥あのさあ、お前俺をなんだと思ってんの?」

「は?」

「だからなんだと思ってんだよ」




それが分かってたんなら今現在こんなに悩んでいない。何も言えずにいる俺を黙って見つめるもじゃ犬。こいつの事だ、きっと俺が話すまでずっと待っているに違いない。これは覚悟を決めた方がいいと判断した俺は、小さく深呼吸をした。




「うるせえ!!この天パ!!」

「なっ、今は天パ関係ねえだろ!!つーかはやく答えろや!!俺のことどう思ってんだよ!!」

「だから今俺はそれで悩んでんだよ!!」



うるさく騒いでいたもじゃ犬の声がピタリと止まる。もうやけくそだった。
ついに言ってしまった。そろり、と視線をユキトに向ければ予想通りあいつは笑いを堪えていた。堂々と笑わないだけましかと思ったが、唇を噛みどうにか笑わないようにと堪えるユキトの姿は想像以上にムカつき、頭を殴ってしまったのは仕方ない事だと思う。
まだ笑っていやがるもじゃ犬に二発目をくらわす俺は全然悪くない。



「いってえな!!二発も殴んなよ!」

「こっちは真剣に悩んでんのにお前が笑うからだろ!」

「いやー馬鹿だなと思ってさ」

「あ?」

「俺、正直お前のこと友達だと思ってねえから」




これはきつかった。真っ正面からこうはっきりと言われたら、俺達は友達ではなくなってしまう。もじゃ犬からしたら俺はただのどうでもいいやつなら、そうなってしまう。俺は結構あの犬のこと一緒にいて楽しくないと言ったら嘘になってしまうくらいには信頼してた。
やっぱり言わなかったらよかったんだ。言わなければ、



「あのな、俺はヒカルの事信頼してるし、正直お前のこと嫌いじゃない、でもお前のこと友達っていうの恥ずかしいしきもちわりー」

「だから俺たちの関係に名前なんかつけなくてもいんじゃね、って思う。お前がどう思ってようが俺がそうおもってんだからいいんだよ文句言うんじゃねえぞ」




ユキトは懲りずにまた笑った。
"俺がそう思ってんだからいいんだよ"
あーあ、今まで悩んでいたのが本当に馬鹿馬鹿しくなった。なんとなくもう一度ユキトを殴っといた。文句は言われなかった。


名前のない関係
(そんな関係も悪くないなって、)




2012/12.17
ホモではないです。
ヒカル君はきっと友達のつくりかたとか中学の時の事を考えると無意識に相手が自分をどう思ってるかとかについて臆病になってるのかなーって。
ホモではないです。


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