イヤホンを耳に、ガムを口に、いつものスタイルで帰宅中の俺は、スマホを指先で撫でながら歩く男とすれ違った。


「あ、ヒカルくんじゃね〜?」


名前を呼ばれたので振り返ってみれば、空音やユキトと仲の良いもじゃ男がスマホをポケットに仕舞う。へらへらとした笑顔は久しぶりに見た。


「…ども、」

「ねぇねぇ、聞いたよ。俺と空音を仲直りさせる為に色々と考えてくれたんだってね。ありがとー」


この様子だとあの作戦は上手くいったんだな、なんて勝手に思いながら俺は小さく頭を下げた。どういたしまして的な意味の会釈である。


「そうだ、ヒカルくんってさあ、杏ちゃんと仲良いじゃん?付き合ってたりとかしないよね?」

「は!?」


思わず間抜けな声が出た。何なんだこいつは。
付き合ってねーよ、と否定すればぱあっと明るい笑顔。


「俺さ、今本気で杏ちゃんを狙ってんだ。ユキトにも言ったんだけど一応君にも言っておくよ」



“協力。してくれないかな”


──何がきっかけが告白する決心がついたのかは知らねえけど、俺は引き受ける理由も断る理由もねぇ。つーか第一に面倒臭ぇかな。


「…悪い。保留、ってことにしておいてくれ」

「……分かった」



ちょっとだけ、残念そうな顔だった。



………
……




「はあ!? かずおに協力してくれって言われた?」


その日の晩、相談がてらユキトに電話をした。そしたら奴は慌てふためいた声で叫んだ。


「そんで?お前は何て言ったんだよ」

「面倒臭ぇから答えてない」


ふーん、と電話の向こう。なんとも興味なさげな声音だ。
俺はすぐそこにあったペンを何気なく手に取り、くるくるとペン回しをした。随分前に始めたからもう手慣れたもんだ。


「つーかなんでお前が焦ってんだよ。意味分かんねえ」

「良いか?かずおの奴、空音ちゃんと喧嘩した理由は自分が杏ちゃんに半端な気持ちで近付いてるからだって思ってんだよ」


“ほんとはそんなんじゃねぇのに、”

悲しそうなその声と同時にペンが落ちた。


「──だったらもう、一生勘違いさせときゃ良いんだよ、あの馬鹿には。そんで空音ちゃんに嫌われちまえば良い」

「あ、そ」


俺はこいつらの恋愛事情に首を突っ込まない。最近付き合い始めた俺には関係のない事だし、深く関わってはいけない気がするからだ。


「大変だな、お前も」




言葉は返って来なかった。





ヒカルと2人の話
(面倒事は御免だけど、)





11.1018
ほんとはユキトくんに協力したいのが本心だったりしてー( ^ω^ )
しっかしヒカルとかずおくんのツーショットはなんだか異色ですね。