うちの両親は共働きで、しかもどちらも凄く忙しいらしい。週末なんかは泊まる勢いで働いているもんだからあたしは1人で金曜の夜を過ごす。これを知っているのはせいぜい幼なじみのユキトくんとかずおくらいだ。

例えインターホンや家電が響いてもあたしは居留守をよく使う。面倒だからだ。金曜日の夜は1人でまったりとするのが嗜み。まあこれを知ってるのも幼なじみくらいなんだけどね。


「はあー…」


今日の出来事を思い出していた。せっかくユキトくんが背中を押してくれたのに、申し訳ないことをしちゃったな。
今度会ったら謝ろう、とぼんやり考えていたらインターホンが鳴った。もちろんシカトしたけど。

ベッドに仰向けになり、何の変哲もない天井を見てると顔の隣で携帯が鳴った。飛び跳ねる程びっくりした。あー、もう誰だよ、あたしの金曜日の夜を邪魔するのは。

新着メール一件、の文字。開いて見ると全部ひらがなで、

“ごめん、はなしがしたい。だからあけて”

と書いてあった。

あたしは自分の部屋を飛び出して玄関を開ける。ああ、そこには馬鹿でどうしようもなくて、あたしがいないと駄目な人。


「──かずお…」

「……」


泣くのをぐっと堪えた表情を見せながら彼は控えめに頭を下げた。

わざわざかずおから会いにきてくれた。だからあたしももう逃げない。
逃げないよ。


………
……





「──…なに、話って」


いつまでも黙秘権を使うかずおにあたしは言葉をぶつけた。なに、って分かってる癖に。なんであたしはこうなんだろう。馬鹿みたい。


「…ごめん、空音」

「……」


謝られるってなんとなくは察していた。欲しいのは謝罪なんかじゃないのに。


「俺がどうかしてた。ほんとごめん。気が済むまで殴ってよ…」


悲しげな語尾に胸が痛んだ。
殴ってよ、ってなによ。意味分かんない。あんたは殴られに来たの?違うでしょ、ねぇ。

(殴られなきゃないのはあたしなんじゃないの?)


ぼろ、と零れた水滴は頬を伝ってそのまま落ちて行った。でもその行方は知らなくて。


「…あたしは、そんなこと望んでないよ…」


震える声と止まらない涙。あたしはこのまま壊れてしまいそうで。
そんなあたしを見て、かずおはあたしの肩に手を置いた。


「空音。空音。俺が悪かった…」


互いの額がくっ付いた。
何故かかずおも泣いていた。かずおの泣き顔を見たのはいつ以来だろう、なんてぼんやり思った。


──あぁ、すぐそばにかずおがいる。

あたしはそんな幸せを、泣きながら、どことなく感じていた。





手が届く距離





12.0827
仲直りしたのかな(^ω^≡^ω^)