ざわざわと吹き抜ける風は爽やかで、それに揺れる木々もこれまた風情があって、5月は気持ち良い時期だと感じたのは杏ちゃんを中庭で待っていた時の話だ。

HRが終わるなり俺は教室を飛び出して指定されていた中庭へと急いだ。何故急いだかというと目の端に映る空音とユキトがいたからだ。2人を見ていると胸がモヤモヤするのだ。
俺の今のこのモヤモヤを杏ちゃんに癒やして欲しい、なんて下衆じみたことを考える自分に何となく腹が立った。無意識のうちに舌打ちをしていた。


「杏ちゃんまだかな…」


泣きたくなった。


………
……



かずおが桜井さんの誘いに乗っているのを見た直後、あたしとユキトくんはヒカルくんに呼び出された。


「お前らに話がある。放課後、中庭に来い。分かったな」


そう言われてユキトくんと肩を並べて中庭に行くと、そこには膝を抱えて丸くなっているかずおが。どうやらユキトくんも気付いたようであたしとかずおを見比べた。


「ねぇ空音ちゃん。これチャンスなんじゃね?」


かずおを指指しながらあたしに囁く。最初はなんのことか分からなかったけど、ユキトくんの顔を見て理解した。

かずおと話し合う。
もうこんなチャンスないと思うし、これから永遠にこんな関係なんて絶対嫌だし。それは、かずおの事が好きだから余計に。


「…空音ちゃん?」


なのに、身体が動けないのは何でなんだろう。
小刻みに震えるのはあたしの両足。手には汗。目眩を感じるほどの動悸。自分のことなのに、病気なんじゃないかって思った。


「…ごめ、あた、し、帰る…」


かずおに見つかる前に、と思いながら背を向けようとしたら、肩を掴まれた。それも乱暴に。


「それで良いの、空音ちゃんは…ッ!?」

「…っ」




嫌だよ。
嫌だけど。

あたしは、まだ、









弱いの、
(見損なったよと言われた方がどんなにマシか)











12.0620
何したら遅れたことを許されますか

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