作戦はいたってシンプルな物だった。あいつらと出会って間もない俺達がどんなに足掻いたところで、無駄なのは分かってるし、あいつら3人にも他人に踏み込まれたくない領域ぐらいあるだろう。現に俺だって、中学の時の事は他人に土足で踏み込まれたらたまったもんじゃねえ。だから、とにかくあいつら3人が話し合いを出来る場を確保すればそれなりにどうにか事は進んでくれるはずだ。
これが桜井と話し合った結果。全てが解決できる、なんて野暮な事は思っていない。でも少しでもあいつらにできた溝を埋めれたら。どうにかうまくいくようにと俺はいまだにザーザーと雨が降り続く空に祈った。






「じゃあ確認しますよ」



次の日、昨日の土砂降りが嘘のように空はかんかんと晴れていた。ピンク色の可愛らしい弁当を片手に桜井は、真剣な眼差しで俺を見る。
今は昼休み。俺達は中庭に集まっていた。中庭といえば初めて空音に会った場所だ。視線を桜井から外して辺りを見渡せば、前みたいに泣いている空音が瞼の裏に浮かんだ。場所は中庭じゃなくても、あいつはまたきっと泣いてる。どうにかあいつら3人の笑顔が見たい。こんな気持ち初めてだ。むずかゆくて奥歯を噛み締めると、桜井が不思議そうな顔で俺の名前を呼んだ。



「あ、ごめん」

「いえ、大丈夫ですよ。3人の事考えてたんですよね?」



桜井の言った事があまりに図星で返す言葉に詰まっていると、ふわりと笑った。
きっと大丈夫うまくいきますよ、そう言われれば今まで自信なかったこの作戦が、絶大な力を持ってるように思えた。そうだ、きっと大丈夫だ。うまくいく。



「放課後私が、かずおさんを呼び出せばいいんですね」

「俺が空音とユキトを呼ぶ。場所はここな」

「でもかずおさん、今日学校に来てるんでしょうか」

「それは大丈夫だ。今朝あいつが登校してるのを見た」

「…一人で、ですよね」



俯く桜井に、それは今日だけだから、と言えば少しだけ笑った。俺達がこんなんじゃだめなんだ。俺達がしっかりしなければ。桜井もきっと同じ事を思ったのか、その目にもう迷いはなかった。



───…



「かずおさん、放課後空いてますか?」

「…あぁ、うん。杏ちゃんから誘ってくれるなんて嬉しいな」



桜井があいつを誘っているのを、俺は少し遠くから見ていた。あのもじゃもじゃの顔はいつもより何倍も元気がなく、言ってる内容と声のトーンが一致していない。桜井の表情も一瞬曇ったが、それはすぐに笑顔に変わりそれでは、と丁寧に頭を下げてあいつから離れた。よし、次は俺の番、とあいつらの教室に近づいた時心底後悔した。
空音はずっとあの二人を見ていた。きっと近くで見れば目にいっぱい涙を溜めているんだろう。それを見つめるユキトは唇を噛み締めていた。
すぐ考えれば分かる筈だ。空音はかずおが好きなんだからこんな状況の時に他の女の子のお誘いにのるあいつを見るのは、大きなダメージだって事くらい。それはユキトも同じだって事くらい。
でももう後にはひけない。俺は二人を教室から呼び出した。




作戦開始
(あとはこいつらの絆に全てをかけるだけ)





2012/0419


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