なんでこんなことになったんだっけ。
いつも馬鹿にされる自分のこの頭で思い出す。


──…あー、そうだ。
俺が杏ちゃんに、恋、したからだ。

そして杏ちゃんが見せる悲しい表情について空音に相談したら、空音が冷たいことを言うもんだから思わずカッとなっちまったんだっけ、

なんて過去をぼんやり思っても戻れる訳でもなくて。天を仰げばいつもと何ら変わらない天井がそこにあった。


「なにやってんだか…」


思わずため息が漏れた。










昨日とは打って変わって、土砂降りの雨が降っていた。どんよりとした厚い雲が空を覆っている。ジメジメした重苦しい空気のせいで授業に集中出来なかった。


「桜井、」


小さく名前を呼ばれたので振り返る。机を2つ挟んで見えるのは鮮やかなオレンジ色のパーカー。それに向かって軽く微笑み返すと唇の隣に手を添えて静かに言う。


「後でちょっと、」

「……分かりました」


珍しいな、どうしたんだろう。
ヒカルくんとは多少喋る機会が増えた。でもヒカルくんから話し掛けてくれることは滅多になかった。
教室の時計に目をやる。授業はあと10分。



………
……




「お前はさ、どう思う?」

「どう、と言いますと?」

「空音達のことだよ。何かあったなんて一目瞭然だろ?」


窓の外の雨を横目で見ながらヒカルくんが言った。

確かに、とあたしは頷く。隣のクラスの3人だけどいつもと違うのは目に見えていた。かずおさんは暫く休んでいるようだし、空音さんからは笑顔が消え、ユキトさんも苛々しているようだった。


「俺、空音に助けられてっからさ。こういう時くらい力になってやりてぇんだ」


哀しそうな瞳はそう訴えた。


「私も、力になりたいです」



………
……



ザアザアと止まらない雨音。その音に私達の声が掻き消されそうにもなったが、作戦は上手く練られ決定した。

長い付き合いであるあの3人を最近知り合ったばかりの私達がどうこう出来る事ではないのは重々承知だ。

──…でも、放っておけないから。

それはヒカルくんも同じ気持ちだと思う。雨を見上げる彼の瞳はさっきとは違うものだった。


「良いか、桜井」

「はい」

「作戦が上手く行くとか失敗したとかはどうでも良いから。俺らの気持ちを思い切りぶつければ良い」

「──分かってるよ、」


ヒカルくんは──本当に変わったと思う。中学生の時とは大違い。
…だけど、、私は?

どくんと跳ねた心臓から背けるように、私も雨を見上げた。





雨天決行










12.0331
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