翌日俺が見たのは、例の三馬鹿トリオだった。三人とも同じマスクをしていてなんかウケた。お前ら本当に仲良いんだな、と言うと各々違う言葉が返って来て面白い。ちなみに、もじゃ犬が俺は予防だ、空音が咳とくしゃみ、あともう1人のもじゃもじゃは笑っていた。
俺は音を立てながらパックのジュースを啜り、三人を見比べた。先日もじゃ犬が呟いた言葉がどうも引っかかっていたからだ。

“邪魔したくねぇもん”

こういったもんには疎い俺だが、なんとなく幼なじみ以外の感情があるんだろうなということを悟った。あくまでなんとなく、だけど。


「んだよヒカル。何見てんだよ」

「べっつにー。お前らみたいな馬鹿が風邪引くなんて、世の中も変化してきてんだなーと思ってさ」

「はぁ!?俺は予防だっつってんだろーが!」


吠えるもじゃ犬を横目にしながら、俺はかわすように教室に入った。
もじゃ犬の唸り声と、空音のくしゃみがまだ聞こえていた。


………
……



気が付けば、もう一限目の授業が終わっていた。口端を流れる涎を拭い、大きく背伸びをする。黒板にある文字列を眺めながら、誰かにノート写させてもらおうと思った。くあ、と大きな欠伸。まだ眠い。


「あの、ヒカルくんっ」


二度寝しようかなと再び机に突っ伏したら声が降ってきた。それは女のもので、目を向けると女が立っていた。(当たり前か)
このピンク頭、なんつー名前だっけ…と眠たい頭でぼんやりと考えた。桜井…んー、桜井なんとかだったよなァ…。


「さっきヒカルくん、寝ててノート取ってないよね?」


はいっ、と渡された可愛らしいノート。そこに桜井杏と書いてあり、名前を思い出した。


「…これ、どうしろと?」

「ヒカルくんが好きなように活用して!あ、でも次の授業までは返してね」


花が咲いたような笑顔を向けられた。自分がちっぽけに思える程の。
パラパラと捲ってみると、可愛らしい字で授業の記録が記されていた。こりゃありがてぇ。


「…サンキュ。じゃあ借りるわ」

「どうぞ。…ねぇ、ちょっと聞いて良い?」


俺の前の席に腰掛け、ちょっとだけ申し訳なさそうな目を見せた。俺の脳内はハテナマーク。別に良いけど、と言うと顔を俯かせた。


「この間、──あたしに過去の自分を言わないでって言ったのはどうして?」


一気に眠気がぶっ飛んだ。まさかそんな話題を持ち込まれるとは思わなかったからだ。

──なんて答えよう。

ぐるぐると渦巻く自分の感情。吐き気すら起こる。
迷う俺を見た桜井は何て思ったのかは知らないが、胸の前で小さく手を振った。


「あっ、答えたくなかったら答えなくて良いよ」

「…」


じゃあ保留で、と小さく呟いた。桜井に聞き返されたがもう一度言うことはなかった。


「でもさ、何の理由があってイメチェンしたかを詳しくは聞かないけど、そのイメチェンをするだけの勇気があったってカッコ良いなぁ」


丁度良くチャイムが鳴り響いたので桜井は立ち上がった。それじゃ、とまた笑顔を向けられる。おう、と返事はしたものの笑顔を止めた後の桜井の表情が何処か意味深で、それがとてつもなく気になった。





なんとなく気になったこと





11.1221
初代携帯にはユキトくんとヒカルが殴り合いの喧嘩をするシーンがあったんですが、全部カット。
ちなみにその時は杏を出そうとは思ってませんでした。


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