- ナノ -




父と娘


かぶき町内のお食事処『でにーず』、その一角で向かい合って座っている大小の銀色の天然パーマが2つ。
窓際から差し込む日の光にキラキラと反射する銀髪をガシガシとかいた銀時の目は珍しく真剣味を帯びていた。

「…ッたく、本気でやる気ですかァ?娘ちゃんよォ〜…」
「本気!約束でしょう?男に二言あるの?」

グッと拳を握って語る娘が、可憐な姿なはずなのに男前にしか見えないのは何故なのか。

(やっぱり母親似なんだよなァコイツ…何で天パはしっかり遺伝しちまったのか、俺ァ天パの伝承者じゃねェぞォォ)

自分と全く同じ髪色とクルクルと跳ねるパーマ。しかしそれ以外は綺麗な蒼の瞳といい、男前でしっかり者な性質は自分似ではない。
今日も今日とて、『でにーず』で貰える1か月分焼肉食べ放題券を手に入れる事を持ちかけたのも娘だ。
万事屋の家計の足しにするんだと、新八と神楽が別依頼で留守にする中でやる気のない銀時を引きずってきた。

「条件が親子挑戦だし…あたしだって好きで誘ったわけじゃないもん」
「いやいや、よく考えてみなさい。このチラシ写真を目ェかっぽじって見てみ?バケツプリンってどこがバケツ?」
「バケツプリンじゃん、どこからどう見てもバケツ!ちょっと大きいけど」
「大きすぎだろォォ!どこの世界に店のテーブルと同じ高さのバケツがあんの!おかしいッ写真の時点で既におかしいッ!」

バンッと応募チラシをテーブルに叩きつけて力説する銀時に娘は動じない。
いくら糖尿予備軍な糖分王でも引くほどのバケツプリンに引かない威風堂々っぷりにこれ以上何も言えなかった。

「おかーさんは忙しいからこんな事頼めないの!だからおとーさん、手伝って(犠牲になって)」
「アレ今なんか心の声重ねなかった?こう生贄になれとか思わなかった?」

ショックを受けている父親に半目を向けていれば、お待たせしました〜という店員の声が響き、窓際から見える外のトラック。
ピーピーとバックしてきたトラックの扉から台車に載って運び出されてくるプリンの姿に開いた口が塞がらなかった。

「違うゥゥバケツ違うゥゥ!!バケモノプリンだよ!バイオハザードもびっくりなタイラントプリンきたァァァ!」
「あ…違う、店員さん。アレこのチラシと違います!」
「そうッそうだよね!!」
「チラシはぷっちんプリンだけど、アレは焼きプリン!」
「そこォォォォ!?」

ドガシャンとテーブルに突っ込んだ(物理的)銀時を傍らに、娘はあの量なら余裕と拳を握って店員をドン引きさせた。
チラシとは実物は少々異なりましてと言い訳を始める店員に復活した銀時がアレやコレやと文句をつける。
しかし譲られる事はなく、結局ダメもとでバケツならぬバケモノプリンに挑戦する事に。

「いただきま・・」

スル―して運ばれてきたバケモノプリンに嬉しそうな微笑みでスプーンをさそうとした瞬間。
派手な音を立ててテーブルから無残に弾き飛ばされるプリン、目を見開いたまま固まる娘に顔を上げる。
銀時が見た先には、豹のような顔立ちをしたどこか見たことのある天人たちがいた。

「おうおう、よく見れば1巻で俺らはコケにした白髪の侍じゃねーか?あん?(※1巻初登場話参照)」
「…あー…どこかで会ったかと思ったら、新八がバイトしてた店にきてた奴らじゃねーの。何年前の話だよ、しつこいねェ」

豹のような天人たちが投げ捨てたらしいテーブルで無残に潰れたプリンの残骸に俯いて震える姿。
気だるそうに腕を振った銀時は笑みを浮かべて返したが、その紅い瞳はどこまでも鋭く冷たかった。

「ココで会ったが百年目だ、そいつはテメーのガキか?まとめてブッ倒してやr」

グバァァと高笑いは最後まで続かず、口に突っ込まれる大小の木刀と吹っ飛ぶ天人たち。
煙を上げて後ろへ吹き飛ばされて壁へ激闘する中で、ユラりと動くは木刀を肩にパンパンする存在だった。

「ギャーギャーギャーギャーうるせーんだよ」
「はつじょーきですかッ」
 「「コノヤロー」」

ハもった中で、銀時と娘が互いに目配せして一緒に飛び上がる。
数十分後に駆け付けた真選組の中で名前は天人をまだいたぶっている父娘に呆れる。

「よく似たお父さんと娘さんみたいで。見た目じゃなくて中身もそっくり!」
「…あはは、そーみたいです」

店員の笑い声に名前は苦笑して返すしかなかった。

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