すれ違いぱっつち大好物すぎて2 | ナノ


あたたかい、ゆびさきが前髪を払いのけた。ちゅ、と労るように目元に押し当てられた唇がくすぐったくて思わず身を捩る。くすりと笑うやさしい気配が離れようと身を起こすのが悲しくて思わず腫れぼったい瞼を押し上げれば目の前には困ったような表情を浮かべた銀八の顔があって。
「起こしちゃったか。」
「せん、せ?」
「うん。先生ですよー」
「んん、おかえんなさ…い」
半分寝ぼけながらそう返すときょとんとした銀八が嬉しそうに笑い、余りの至近距離での表情の変化に跳び跳ねてた心臓に慌てて後退しようとして自分の手が銀八のシャツの端を掴んでいることに気付きカッと寝起きの脳が煮える。
「ぁ、え。ち、ちがっ…これは、その」
「ただいま、土方。待たせちゃってごめんね。」
にっこり笑って頭を撫でた銀八の手にまた心臓が跳ねる。駄目だ。
「待ちたくて待ってた訳じゃないです。早く、外してください。」
ゆるく頭を振って暖かい手を払い、銀八を睨み付ける。そうだ。自分は銀八に変なもの着けられたから仕方なくここに来ただけで、暇すぎてつい寝てただけだからここに長居する訳にはいかなくて。銀八から早く下肢を戒めるベルトの鍵を奪って中に入れられた指示棒まで取り外して腹いせに2、3発殴ってからここから逃げなくてはいけなくて。出来るだけ不機嫌そうな声を出してギッと睨めば、銀八は何を思ったか一層頬を緩めて。
「…なに」
「いやぁ?なんでも」
ほらこれ鍵な?ひょいと掲げた小さな鍵に思わず手を伸ばせば逆に捕まってしまって。
「なにすんだ!離せよ!!」
「いや何ってナニだろ。土方には寂しい思いさせちゃったし穴埋めしなきゃね。もちろん先生のナニで」
にたりと笑う顔はほぼエロ親父で。ドン引きしながら離せ変態と暴れても掴まれた両手はびくとしなくてめちゃくちゃに足を動かそうとしても足の間に入り込んだ膝に股間をゴリと刺激されてしまってはろくに抵抗なんかできなくて。ひぅっと喉が引きつれば銀八の瞳の奥に欲の炎がちらついて。
「だ、誰がさびしいもんかッ離せ変態!」
誤魔化すように怒鳴っても、せめてもと睨み付けてもやはり銀八は楽しげに目を細めるだけで
「いやいやいや。嘘はいかんよー土方くん。」
思わず俺の白衣着ちゃうほど寂しかったんでしょ?すっげーそそるんだけどその格好。
ガツンと頭を殴られたような衝撃土方は目を見開いた。真っ白な頭でギギギ、と自分の体を見れば、自分をすっぽりと被うのは泣き疲れ眠ってしまう前と同じ銀八の白衣で。かあっと羞恥に頭を焼けば耳まで赤く染まった土方に、銀八は思わず舌舐めずりをした
「土方、かわいい。でも、先生に嘘ついちゃう悪い子にはお仕置きが必要だよね?」
びくりと怯えたような目で見上げてくる土方に銀八はお仕置きいや?と首を傾げる。こくこくと頷く土方にしょうがない、なら、と口を開いた銀八は、どこか苦いような表情で
「なら、土方。なんで泣いてたのか、正直に教えて?」
思いきり泣いたせいで未だに熱をもっている目元を撫でるあたたかくかさついた指先に土方はぐっと唇を噛んだ。
「土方」
「…泣いてねぇ」
「嘘。」
「嘘じゃねえ。大体先生今日は変だぞ。いきなり卑怯なやり方で、家に呼んだりして。」
俺まだ怒ってんだぞ。さっさとこの変なもん外せよ。目も見ず捲し立てれば土方が不機嫌であることを理解した銀八はそりゃーちっと強引だったかもしれねぇけど、と口ごもる。そらされた視線にズキと痛む心。わかっていたけれど、やはり銀八が自分をプライベートな領域に招き入れたのには深い意味なんかないのだ。一人で浮かれたり悩んだりした自分がバカみたいで、準備室以外で触れ合うことに特別な意味があるのではとどこかうっすら期待してた自分を胸中で嘲笑い睨む眼光に力を込めた
「早く、その鍵寄越せ。」
手を伸ばせば届く距離にあるのに身動きできない歯痒さに体を捻れば、銀八は聞き分けのない子を宥めるように笑った
「ごめんごめん。土方はいい子にして待っててくれたんだもんな。まずはご褒美だったな」
あまりの話の通じなさに声を荒げようと口を開けば、唇ごと言葉を柔らかく封じられてしまって。あまいあまいキスに頭が蕩けいる間に器用な手に下着ごとズボンを取り払われてしまう。かちゃりと鍵を回されいとも簡単に拘束が外れ中のものも引きずり出され、唇が離れた頃には土方はすっかりふにゃふにゃのくたくたになってしまった。
「寂しい思いさせちゃったし、お詫びもかねて今日はとろっとろにしてあげるからね。」
「や、やだ」
普段だって十分過ぎるほどの快感を与えられているのに。土方の形のいい頭を両手で挟み、ちゅ、ちゅと顔中にキスの雨を降らす銀八の甘い仕草に思わずシャツの端をすがるように掴めば銀八はキスを中断して困ったように笑った。
「学校じゃねぇんだから、もっと甘えていいんだぞ?」
ホラ、手はこっちと掴まれた手は背中に回されて。ぐっと近くなった銀八の体温に土方の体がびくりと跳ねる。
「や、やめ…ンで、こんな」
こんな、恋人が抱き合うみたいなしぐさで触れられてしまえば馬鹿な俺は都合のいい勘違いしてしまいそうで、嫌々と首をふれば銀八は不思議そうにいや?と聞いてきて。
「や、じゃねぇけど。こんな、恋人同士みてぇなマネっ」
いつもよりずっと近い体温。ここは準備室ではなく銀八の家で。あまいにおいのするソファに押し倒されて、甘ったるいキスを与えられて。まるで本物の恋人に行うような仕草に心が悲鳴をあげる。
「も、いいから。こんな、ごほうびいらねぇから。」
引き絞られたように胸が痛む。なんとか捻り出した言葉は情けなく震えていた。どくんどくんと爆発しそうな心臓は痛いくらいに脈打って
「俺、バカだから、都合よく、かんちがいしちまうから」
だから、頼むから離して。かたかたと震える手を掴んでいた銀八の大きな手がぴくりと震えた。ついに言ってしまった。ずっとずっと隠してきたのに。銀八はただ気紛れに触れているだけなのに、いちいち期待してしまう己の浅ましさに嫌気がさす。微かな接触にも高鳴ってしまう心を隠すのはもう限界で。情けない顔を見られたくなくてきつく目を閉じて胸元に額を押し付けた。

「なにそれ」
沈黙を破った銀八の声は平坦すぎるほど平坦で。びくりと怯えるように身を縮めた土方は可哀想なほど蒼白で握りすぎて関節が白く浮いた拳が痛々しい。
「勘違いって、なに。俺とお前は、恋人だろ?」
「……………はぁ?!」
思わず顔を上げれば銀八のは心底理解できないと言いたげな表情を浮かべていて。
「ちょっと、待て。先生は俺のこと好きなのか!?」
「えええそっから!?それマジで言ってんの?!」
俺ちゃんと付き合ってって言っただろ?と少し赤らんだ頬をかく銀八にくらりと目眩がする
「流れ的に、セフレ扱いだとばかり…」
「はぁ!?遊びなんかで、ンな危ない橋渡るかバカタレ。」
ぺし、と軽く額を叩いた銀八の表情は、呆れを含みながらも優しい色で満ちていて。
「なるほど。だから素直に甘えてこれなかったわけね」
納得したように頷いた銀八に次の瞬間ばしりと勢いよく顔を挟まれ、土方が目を白黒させる。それを気にもとめず、銀八はまっすぐに言い切った。
「好きだ。」
目を見開き固まる土方に、そういや確かに肝心なことは伝えて居なかったかと反省し、もう一度好きだと言い、軽く額に口づけた。既に真っ赤な土方の顔が一層赤くなる。
「勘違いじゃないから、甘えても大丈夫だから。腕回して抱きついて。そんでいい加減、声聞かせてくれよ。」
恥ずかしがりな土方は、準備室じゃ落ち着かないんたと思ってた。だから今日は思いきって家に呼んだんだけど、それだけじゃなかったんだな。気付かなくってごめん。真っ直ぐ土方を貫く眼差しはひたすら真摯なそれで。
「…せんせ、」
「なぁに?」
「俺、先生が好きです」
「うん」
「そんで、あの…いいこ待ってたんで、ご褒美くれませんか?」
俯き気味に反らされた視線。さぁっと首元まで赤く染めながら小声でそう言った土方は震える手で銀八のシャツの端を掴んで
「…もちろん。とろっとろにしてあげるってさっき言っただろ?」
その手をそっと捕まえて、指を絡めながら抱き寄せる。合わせた唇がやたら甘くとろけたのは、おずおずと擦り寄って来た愛しいぬくもりのせいだろう