※知識とか全くないのでなんとなく雰囲気で読んでください← 「んー。おっかしいなぁ…」 「どうした?近藤さん。」 「いやな、なんか最近貯金の実績が若干下がってるような気がしてな…」 近藤の持っていた資料を受け取り、土方は引っ掛かりを覚え、固まる。最近解約した客の名前に、見覚えが、ある。 「あーりゃりゃあ。こりゃ見事に土方さんの担当じゃねーですか。」 ひょいと覗き込んできた沖田の言う通り、リストに載っていたのは土方の担当する顧客ばかりだった。 「なんでトシの客ばっか…」 「なんでもなにも。原因ははっきりしてるでしょうに。」 「えっ何総悟なんか知ってんの!?」 「ええ、まぁ」 ニタリ、一瞬で一見可愛らしいといえなくもない整った顔が悪魔のような笑みに変わる。サディスティック星の皇子の名を誇る彼が背筋が凍るようなソレを浮かべるとき、それは土方をいたぶるのが彼が楽しくて楽しくて仕方がないときだ。 「原因はズバリ、月曜のアレでさァ」 「……アイツは関係ねぇだろ」 月曜日。そのワードに土方の顔が僅かに歪む。 「何言ってんですかィ、関係大有りでさァ。今まで少しでも気を引こうとせっせと貢いでた相手が男相手に頬染めてんだ。面白いわけねーでしょう」 「誰が頬染めッ」 「監視カメラの映像、観ますかィ?」 ぐ、と言葉に詰まる土方。燃えるように熱くなった顔を、頭を冷ますために喫煙室に駆け込んだのはつい一ヶ月ほど前の事だ。 言い返してこない土方に、ま、俺は面白けりゃあどうでもいいしぶっちゃけ知ったこっちゃねーですがねィとニヤニヤと笑った沖田はじゃ、俺外回りがあるんで、と颯爽と立ち去った。 「えーと、まぁなんだ、恋愛は自由なわけだし」 「れれれ恋愛とかそんなんじゃっ、」 あるような、ないような。 とりあえず、友達から。そんな言葉から奇妙な客という立場から友人に格上げされた銀髪頭が脳裏を過り言葉に詰まった。押し黙ったままじわじわと赤くなる同僚兼親友を見て近藤はこの男にもようやく春が来たかと生暖かな笑みを送り、早く自分も思い人であるキャバ嬢、お妙さんと幸せな恋愛をしようと決意を新たにしたのだった。 「と、とりあえずだ。アイツには営業妨害になっからもう来んなって言っとく。」 「何言ってんだトシ。お前もアイツも悪いことなんか一個もしてないだろう」 「でも、」 俺のせいでうちの銀行の成績が下がるなんて。 そう続けようとして土方は言葉に詰まった。そんな身勝手なことを坂田に言ってしまっても、いいのだろうか。仕事が不規則な万事屋家業をしている坂田が、その報酬を振り込みに来る月曜日。別に銀行まで来る必要はないというのに彼がわざわざやって来るのは大切な依頼料を「土方に」預けたいからだと先日本人の口から聞いたばかりなのに。 「一個言い忘れてたんですがねィ」 「ぅをぁ!?」 「なななんだ総悟」 土方が黙り込み、俯き表情に翳りの色がさしたのをみて近藤が口を開いた瞬間、去った筈の沖田がひょっこりと顔を出した。 驚く二人を気にも止めず話す沖田はあくまでもマイペースだ。 「旦那の件、ほっといた方が懸命だと思いますぜ。」 「は」 「まぁもうちょっとばかし様子を見てみなせぇ」 アンタ、すぐ担当増えますぜ。 精々しっかり働いて過労で倒れてくだせぇと言い残し、ドエス王子は今度こそその場を去ったのであった。 「…土方さーん、入金お願いしまーす」 「……おう。」 「なぁ、なんか人多くね?」 「……あぁ」 「しかもなんだかめっちゃ視線感じんだけど。」 「……あぁ」 ガヤガヤと賑わうロビー。そこまで広くないそこを埋めているのは通常の客と、昼休みらしい近所のOL達。 「しっかしさァ、毎週確実に増えてってるよね、アレ。」 「…しかも、明らかにこっち見てるよな。観察してるよな。アレ。」 「そんでもってなんか期待に満ちてるよなあの視線。突き刺さる視線に絶対なんか籠ってる。めっちゃ籠ってる。どうしよう俺らめっちゃ応援されてるよ土方くんっ」 「うううるせぇ黙れ!どさくさに紛れて手ェ握んな!」 坂田の手を振り払いつつ、きゃあっと控えめに上がった歓声に頭が痛くなる。 真選銀行は企業が立ち並ぶ地区にあるとはいえ、コンビニと比べると少し距離がある。それなのに何故か最近昼休みにATMなどを利用する為に足を運ぶ若い女性が大幅に増えているのだ。 原因はズバリ目の前の男。と、不本意ながらそれに迫られる自分らしいことは既にわかっている。だって好奇心と野次馬根性に満ち溢れた視線がビシバシ突き刺さってくるし、ひそひそキャッキャしてる声は嫌でも耳に入る。 「いいぞもっとやれ」だの「リアルツンデレおいしいですhshs」だの「早くくっつけこのほもっぷる!」だの。何を言っているのかは全く理解できないが、抑えられた声はそれでもやたら弾んでいて、抑えきれない何かが滲み出てる。 昼時にできるATM前の長蛇の列からの視線は痛いが、来客が増えたおかげで成績なんかはプラマイゼロどころか大きくプラスになっている。とはいえ、自分が見世物になっているのはやはりあまり気分のいいものではない。 「お待たせ致しました、通帳をお返しします。」 「ありがと。…そういや土方さ、今週末暇?呑みに行かね?」 「あ?……別に構わねぇが」 あまりの居心地の悪さに通帳を突き返すと当たり前の様にするりと指を絡められ、なんだと睨み付けると坂田はにっこりと笑った。後方の空気がざわ、と揺れた。 「やった!じゃあさ、この前見つけた店行こうぜ。個室で落ち着いた感じの所だからマヨネーズどんだけぶっかけてもOKだし!」 「わかった。詳しくはメールしてくれ。」 「了解。ほんじゃね、土方さん」 ちゅ、と指先に唇が触れる。カッと頬が燃えるとほぼ同時にきゃあああと歓声と雄叫びがない交ぜになったような黄色い声が響いた。 (あんにゃろ、わざとやってやがる!) どこかで見たようなにんまりと弧を描いた口元。振り払った手をそのままヒラヒラと振ってスキップでもしだしそうな程軽やかな足取りで去っていく後ろ姿。 (くっそ…アイツもドS星の住人かよぉぉぉ…ッ) 赤くなっているだろう顔を何とかしたいが昼休みに入ったばかりのこの時間帯は野次馬のOL以外にも何かと混むので今土方が席を立つことはできない。つまりこの物凄く居たたまれない空気の中で、土方は好奇と歓喜の視線に晒され続けなくてはいけないのだ。間違いない。坂田はこの時間を狙ってきたのだ。そして今の行動だって確実に確信犯だったのだ。そう気付いたら羞恥を上回る殺意が沸いた。 (くそ、休憩入ったら直ぐ文句の電話入れてやる) まだ少し顔が赤いものの完璧な営業スマイルで次の客の応対をしながら土方は机の下で固く拳を握りしめた。 負けず嫌いな土方が文句を言うために電話を掛けてくるだろう所まで計算して坂田がイタズラを仕掛けたことなど、土方は知る由もない。 |