「なぁ、土方センセ。いつまてそうやって、誤魔化して逃げるの」 「っ、坂田。離しなさい」 夕暮れの生徒指導室。夕焼けに染まり煌めく銀髪の教え子を、土方はギリと睨み鋭い声を飛ばした。 「もう、そんなんじゃびびんねーし。…いつまでもガキだと思って甘くみてんなよ。」 昔はそれだけでビビり、固まっていたくせに。高校に入り元々でかかった背を更に伸ばし、視線が平行になった坂田は少しだけ大人っぽくなった顔を少ししかめただけでだった。 「なぁ、先生。もうガキじゃねーんだよ。下の毛ならとうに生え揃ってるぜ。なんなら今ここで確かめてみる?ね、土方センセ」 振りほどこうにも壁に押さえ付けられ思うように身動きも出来ず、ギラリと真剣な瞳に射抜かれ、喉が震える。 「そんなん錯覚だろ。あぁ、お前に限っちゃ刷り込みかっ、」 「先生」 「 ッなんだ、」 「俺は、てめーの気持ち取り違える程馬鹿じゃねーつもりだよ」 「…大人をからかうな」 「からかってなんかねーよ。伝えてるだけだ。アンタが俺に言ったんだろ。言わなきゃ届かないって。諦めるなって。俺はアンタにわかって欲しいんだよ。本気で好きなんだって」 懇願するような響きにはぐらかすのも限界なのだと感じる。俺は、答えを出さなきゃいけないのだ。この教え子の、精一杯の気持ちに。 「…一度だけしか言わない。よく聞け」 一教師として、答えたくなかった問。口にできなかったのは、俺の答えが、コイツの未来を潰すことになるかもしれないから。 頭ではそうわかっているのに、泣きそうな顔で笑う坂田に思わず口づけてしまった俺は、教師失格なんだろう。 |