きゅ、と掴まれた肩にはっと我に返り顔をあげる。真っ赤になった乳首から唾液が引いてテラテラ光る様が卑猥でもっと吸い付きたくなるのをぐっと押さえる。 「わり、ひじかた」 どんだけ夢中になってんだ、と自分自身に呆れながら顔をあげる。乱れた服のまま不安そうに見上げてくる土方とはなんとなく目をあわせづらくて視線を逸らす、と視界に入った握り混みすぎて白くなった手に、冷水ぶっかけられた様な気分になった。 「とりあえず、風呂入って来な」 冷たい手足に土方がガチガチに緊張してたと知る、と同時にどんだけがっついてたんだよとまた自己嫌悪。 「はい」 俯きがちに服の前をあわせ、足早に風呂場へ向かった土方がドアに消えた瞬間俺は崩れ落ちた。 (や、やっちまったあああああああ) いくらなんでもやり過ぎた。相手は初な恋人だからこっちが理性を飛ばしたら敗けなのに!あんな緊張してんの気付かないとかどんだけ!最初のうちは怯えるように縮こまった体は何処に手を滑らしても敏感だった。ぴくぴくと跳ねる体にコイツほんとに俺しか知らないんだなと分かってしまうともうだめで。徐々に上がっていく息に、高校生らしからぬ溢れ出る色気に、必死に俺を呼ぶ声に、もっと俺の手で快楽を教え込みたいと思ってしまって、止まれなくて。 (だからってがっつきすぎだろおおおおお) ガンガンと床に頭を打ち付ける。ちょっとだけ冷静さを取り戻した頭で思考を巡らす。土方は、緊張してガッチガチだったが怯えてはいなかった。むしろ、濡れた瞳はうっすらと期待で彩られていた…ような気がする。 「あれ、そういや遅くね?」 一旦気持ちを落ち着ける時間を稼ぐために風呂を進めたが、多少冷静さを取り戻し押し倒した時に倒れたマグカップなんかを片付けて手持ち無沙汰になってそわそわシーツの皺を伸ばし始めても尚土方が戻ってこない。普段は烏の行水かと言われるくらいだと言っていたはずなのに。 (まさか、俺が怖くなって出てこれない!?) はっと口をおさえ、いてもたってもいられず立ち上がる。怖がってるなら追い討ちかけるだけだとわかっていながら声をかけずにいられなかった。 「土方?」 コンコン、とドアを叩くと、びくりと跳ねた肩と振り返るシルエット 「長かったから…その、のぼせてねぇか?」 我ながら下手な言い訳だと内心苦笑しながら聞く、が返ってきた声にすっと肝が冷えた。 「あ、すみません、すぐ」 強張った声が若干震えていた。まさかと思ったが衝動的にドアを開けてしまった。 「土方、お前なに泣いてんだ?!」 「へ?」 頭からシャワーを浴びていた土方は驚いたのか間の抜けた声をもらし目を丸めている。見開いた瞳から、こぼれ落ちた雫。 「ないて、ないです」 シャワーとめないと、なんて誤魔化そうとする土方。風呂場に踏み込み腕をつかむ。 「せんせ、ぬれますよ」 びくりと強張った体に、震える肩に、心配が焦燥にかわる。 「なぁ、なんでないてるの」 「泣いてないって言ってるじゃないですか」 睨み上げてくるのは揺れる瞳。不安と悲しみを映した漆黒に胸が締め付けられる。彼は嘘が得意でなくて、そんなところもとても可愛く好ましい。大切にしたい、なんて柄にもなく思う程。 「嘘だな」 沈黙は肯定 「なぁなんで、」 問い詰めたいわけじゃないのに自然と強くなる声は、彼に遮られた。 「それを、俺に聞くんですか」 絶望に沈んだ瞳から大粒の涙が零れる。 「俺、もうすぐ捨てられちゃうんでしょう?」 何を言われたか理解するまでに数秒、ボロボロと涙を溢しながら必死に嗚咽を噛み殺す彼に、頭の奥で何かがブチ切れる音がした。 → |