お題:万事屋の風呂場,首筋,受け止める 結果:万事屋どこいった 柔らかく降る温かな雫が首筋を伝う。包み込むような温かさに体がふる、とふるえた。早く出なければ、じわじわと温度の戻ってくる足元を見ながらぼんやりとそう思うのに根でも張ったみたいにその場から動けなくて。 「…わり、とりあえず風呂入って来な」 気まずげに逸らされた視線。がしがしと銀髪を掻き回すのは本人も知らない、すごく困ったときの癖だ。 「っ、…っく、せんせ…ッ」 ここから出たら、やっぱり男は無理だったと告げられてしまうのだろうか。絶望に悲鳴を上げる心。元々は告げるつもりすらなかった恋だというのに。受け入れて貰えただけで幸せだと思っていたのに。人間の欲望には底がないというのはどうやら本当らしい。 (嗚呼、でも丁度いいのかもしれない) 今日は修業式で、明日から長い長い夏休み。毎日部活あるし先生だって平日は学校だと言ってたけど出会さないように気を付ければきっと夏休み明けには先生と生徒に戻れる。気持ちを整理する時間はいっぱいあるから、今は早く風呂から出て、傷付いたなんてなんて欠片も悟らせないようにいつも通りに振る舞って。大丈夫、だいじょうぶ。なんでもないフリは得意だから。 「ひじかた?」 コンコンと硝子戸をノックされびくんと肩が跳ねた。 「長かったから…のぼせてねぇか?」 心配そうな声。まずい、そういや時間を気にしてなかった。ドクドクと忙しない心臓を押さえる。 「あ、すみませんすぐに、」 あがりますから、と続ける前にバン、と戸が開いた。酷く焦ったような顔の先生が目に焼き付いた。 「へ、」 「おま、何泣いてんだ」 涙声にはならなかったはずなのになんで、と思ったが、それよりも誤魔化さなければ、と焦燥感に駆られるまま口を開く。 「ないて、ないです」 シャワー、出しっぱですみません、今止めますね。なんて言いながら距離をとろうとして、腕を掴まれた。 「せんせ、ぬれますよ」 「なぁ、なんで、泣いてんの」 誤魔化すな、と真剣な目で射抜かれる。掴まれた腕が燃えるように熱い 「泣いてないって、言ってるじゃないですか」 ぎゅ、と顔をしかめて睨み上げる。 「嘘だな」 精一杯の強がりは、あっさりと見破られた。 「なぁ、土方」 嗚呼、なんて残酷なひとだろう。 「それを、俺に聞くんですか」 高校生にもなってボロボロ子どもみたいに泣くなんてみっともないと思うのに、止められなくて。 「だって俺、もうすぐ捨てられちゃうんでしょう?」 先生の瞳が大きく見開かれて、嗚呼、そんな顔も出来るのか、なんて懲りずに思いながらこれ以上泣き顔を見られたくなくてそっと俯いた。 → |