昼下がりの公園。駆け回る子ども達と井戸端会議に勤しむ母親達が見上げるのは滑り台の上の地味な男。先程まで子ども達とカバディしてた人の良さそうな顔をしているがそれ以外に特にこれといった特徴もない男が滑り台の上でいきなり黄昏始めたからだ。その視線からは野次馬根性が滲んではいるがそっとして貰えるのは正直ありがたい。 「おっちゃん!じゃまー!」 「…はいよ。」 …できれば子どもにもそっとしておくように言っててほしかったなぁと内心ぼやきつつ、まぁ遊具を占拠していたのは事実なので大人しく明け渡す。木陰のベンチに腰を落ち着けると母親達の関心も我が子へと移っていった。いい天気だなーと抜けるような青空を仰ぎながら考えるのは昨夜のことで。 ズキ、と小さな音を立てる左胸に首を傾げる。なんでこんなにショックを受けているんだろう。直属の上司が得体の知れな…く、はないな、何かと関わりはあったし。えーと、食えない?掴み所のない?万事屋の旦那と副長が出来てるのなんてとうに気付いてた。だからそれを改めて目撃したのなんてどうってことないことだったはずなのだが。でも、 「すきだ……あいしてる」 そう言った特徴だらけな後ろ姿。その肩から覗く見覚えのある形のいい耳 「…おれもだ」 と言ったのは聞いたことのない副長の声で 「…あ、そうか」 あの声、初めて聞いたんだ。欲が滲んで掠れた、低くて甘い響き。 「そっか」 ずっと傍で働いてきた。冷徹な仮面の裏の素顔を晒して貰える、信用に足る手足としての自負。そんな自分すら見たことのない側面があったことにショックを受けたのだ。自分は 「そ、」 ぽた、滴が落ちたのは1度だけ。深く息を吸って、吐いて。気付いてしまった小さな気持ちには名前をつける前にしっかりと仕舞い込んで鍵をかける。見つけられなかったあの人を見つけたのは旦那で、自分ではない。隣に立つ相手を選んだのはあの人自身だ。だから、自分は今まで通りあの人の手足でいい。 「ん?」 振動し始めた携帯を取る 「はい、山崎。え?えええちょ、俺今日非ば、〜ッわかりましたわかりましたって!今戻りますって!はい!」 パタンと閉じた携帯に、視線を移しため息。再び仰いだ空は相変わらず抜けるようないい天気で。 「さぁて、精々手足として頑張りますか」 きっと開口一番「遅い!」なんてちょっと嗄れた声で怒鳴られるんだろうなーなんて苦笑しながら、地味な男は駆け出した。 |