ヘタレ坂田と誘い受け土方のお話(仮) | ナノ



キス題 :自室 赤面 強引に キスを迫られている姿 あれ、後半全く合ってない …?






「ってーな、一体何…」

突然襲った衝撃。床で擦った背中と肘の痛みでぼんやりと意識が覚醒した。転がった酒瓶と殆どなくなったつまみが散乱するローテーブルが視界の端に映り、そうだ、今日は臨時収入が入ったから宅飲みをしていたんだとアルコールに浸った頭を掻き回す。
じゃあなぜ自分は突き飛ばされた後のように身を起こしているのか。正面を見やり坂田は固まった。

「なぁ、さかた、」

真剣な、しかしどこか切羽詰まったような顔で俺の上に乗り上げているのは、最近よく一緒に飲むようになって、少しだけ柔らかく笑うようになった鬼の副長さんで。
そういや巡回してたらしいこいつに買い物途中に偶然出くわして機嫌良さそうだったから駄目元で誘ってみたんだっけ。んで夜おずおずとやって来たのが嬉しくてつい手土産にもらった焼酎をハイペースで開けちゃって。でも何でこいつ俺の上に乗り上げてんの?

「さかた…」

する、と首に回された腕と呼ばれた名前にドキッとする。すり、と首筋に触れたのはたぶん、土方のほっぺたで。酒で火照った柔らかい感触を理解した途端、なんかぶわっと顔が熱くなった。

「おおお多串くん!?」

あれちょっと待って何で俺土方くんに乗っかられて、抱き付かれて、おまけに頬擦りされてんの?!咄嗟に腕掴んだらぴくりと肩が跳ねた。しかし離れるどころかぎゅうと力が強くなって。肩口に押し付けられた頭が嫌々と左右に揺れた。え、え、なにそれかわいいっていやそうじゃなくて。何、土方ってばそんなに酔ってんの?コイツ極限まで酔ったらこんな甘えたになんの?うっわなにそれかわいいっていやそうでもなくって!!

「ひ、土方くん?銀さんちょっと苦しいなー…なーんて」

息じゃなくて心臓が。あと息子も。尚も左右に振られる首。パサパサと音を立てる黒髪ストレートが顔に当たってちょっとくすぐったい。

「…どうしたの。ひじかた」

埒が明かないのでそっと片腕を腰に回し、もう片方の手でそっと背中を撫でながら耳元で囁くと腕の中で土方がびくんと跳ねた。バッと離れ、漸く見れた顔は真っ赤。そんなに土方飲んでたっけ?真っ赤な顔も潤んだ目もかわいいなーなんてしみじみと思いながら背中を撫でる手は止めずにいると何故かぎゅっと肩を掴まれ、熟れたトマトみたいな顔した土方に睨まれた。

「酔った?暑くない?なぁひじかた、」

かたかたと震える手と何かを噛み殺すような息の仕方を心配してずいと覗き込めば、土方はびくっと目を瞑りぶるぶると硬直した後くたんと力が抜け、そのまま倒れ込んできた。はあはあと荒い呼吸は心配だが、さっきより密着度の上がった体勢にハラハラより先にムラムラする。

「待ってろ。今布団引いてやっから」

我慢だ相棒。折角ここまでいい感じに距離を縮めて来たんだ。例えそれが如何に旨そうな据え膳であろうと、今は忍耐の時なのだ。甲斐甲斐しく介抱してやりながら、銀時は後で土方をおかずにトイレで抜こうと決めた。あれはまるで背中撫でられただけで感じちゃう、みたいな仕草だった。酔って甘えたになってあんなにエロくなるなんて。いつもどうしてんだろ。セーブしてんのかな。てことは俺の前で少しは気を緩めてた?それならすごく嬉しいな。
昼間新八が干しといてくれた太陽の匂いがしていつもより少しだけふかふかになった煎餅布団を敷きながらふふふと笑みが漏れる。上機嫌で客間に戻ると、土方はぐったりとソファに凭れていた。

「っオイ、マジで大丈夫かお前」

とりあえず水を差し出すと、ぐったりとした口調でおまえのせいだと弱々しく詰られた。飲ませすぎたかと謝ると土方は何故か遠い目をして天を仰いだ。

「みず、のませろ」

据わった目で女王様のように命令する土方に思わず苦笑する。いつからか言われるようになった小さな我が儘。恭しく顎に手を添え、コップを傾ける。美味しそうに水を飲み下す土方を前に、暴れだす本能を理性の糸で締め上げる。この小さな我が儘は土方と飲むときの最大の試練なのだ。目の前にある唇にむしゃぶりつきたいのを堪え、上下する喉仏に生唾を飲み、口の端から零れた水滴を舐め取りたいと叫ぶ欲望を捩じ伏せる。好きな子ができたら、大事にするんですよと。昔頭を撫でながら教えて貰ったから。あ、違う。先生に言われたからじゃなくて、土方のことが本当に好きで、大事にしたいから、するんだ。本能はそんなに好きならなんで、早く自分のものにしないんだと口を尖らせてるけど、これでも俺、頑張ってんだぞ?

「さ、寝るぞ土方。布団まで歩けよ」

抱き上げ、フラフラする土方の腰に手を添える。我慢だ我慢。耐えろ、理性。土方が俺を好きになるまではいかなくとも俺に対してちょっぴりでも好意を向けてくれるまで。とりあえず、好きだって言って、断って気まずくなるのが惜しくなるくらいの足場を固める。それまでは気の合う飲み仲間。
我ながらヘタレな作戦ではあるが、せめて気に食わない喧嘩相手からは脱却したかったし、本気で人を好きになんてなったことなかったから恋の駆け引きなんてわかんねーし、なにより土方ともっと仲良くなりたかったし。別に告白しようとする度怖じ気づいて酒で誤魔化しているわけではない。断じてない。
ていうか土方懐柔作戦(見も蓋もない作戦名だというツッコミは受け付けない)はわりと順調に進んでいるような気がする。だって作戦開始当初は毛を逆立て威嚇する猫のようだった土方は(あれはあれでかわいかったが)段々と俺に気を許し、最近は俺の傍でもリラックスしてくれるようになったし、柔らかく笑ってくれるようになったし、気を許したような態度とか、小さな我が儘を口に出すこと多くなった。さっきみたいに。
気位の高い綺麗な黒猫を懐かせたようなくすぐったいい気持ち。もっとどっぷり甘やかしたいけどいきなり抱き抱えたり猫可愛がりしたらびっくりしちゃいそうだし。我慢我慢。ちょっとずつ慣れてもらえたらいい。まぁぶっちゃけ膝の上でゴロゴロ鳴かすより俺の下でアンアン啼かせたいし訳だが。土方となら、こんなくすぐったいようなじれったいような関係も以外と悪くない。
それはさておき、あああかわいかったなぁさっきの。甘えたですりすりって!膝乗りって!なんかビクビク震えてたし!なんな息が荒かったし!お酒万歳!!酔っぱらい万歳!!エロい土方万歳!!おっといかん。ついにエレクトしてしまったか相棒よ。いや、お前は今までよく耐えた。よし、今トイレに

「さかた、どこいくんだ」

土方を布団まで誘導し任務完了。一刻も早い解放を望む相棒のためにトイレへ向かうべく踵を返した俺は、思わぬ障害にぶち当たった。くん、と着流しを引っ張られ振り返った俺の目に、そのままだと苦しいだろうからと帯を緩めた着流しから覗く肌がばっちりと焼き付いたのだ。

「や、ちょっとトイレ。飲みすぎちって…」

誤魔化すように頭を掻くと土方の眉がむっと寄った。布団の上に座り込んだ土方は自然と上目使いで拗ねたような寂しそうで不安そうなそれは、酒で上気した頬と黒の着流しから覗く逞しい胸元と相まってその破壊力たるやスカウターが余裕で弾け飛ぶ程だった。ついでに股間と理性もパーンしそうだった。

「おい、このおれがここまでしてるのに、いま、このたいみんぐでといれにいくのか、てめーは」

つんと拗ねたように突き出された唇に、漏れたのは苦笑。つまりアレか。土方くんてば甘えた継続中なわけか。

「はいはい。銀さんはどこにも行きませんよー」

この寸止めはちと辛いが一人で寝るのが寂しいと拗ねるなら早々に寝かしつければ問題ないだろう。腹いせに、トイレで抜いたあとは同じ布団で抱き締めながら眠ってやる。朝目覚めてびっくりするだろう土方に、一緒に寝ろって我が儘言ったのはお前だしなんて言ってからかってやろう。羞恥で真っ赤になる土方の表情はきっととてつとなくかわいい。

「なぁ、さかた。おまえさ、いみ、ちゃんとわかってねーだろ」

一緒の布団に横になり、腰のあたりをゆっくりとしたリズムで叩いてやってると、土方がきゅっと悔しそうに唇を噛んだ。痕が付くぞと唇を親指で優しく擦ると、ぴちゃり、と指先に濡れた感触。えっ、親指を、食まれ、た?

「ひひひ土方っ!?」

動揺する俺など気にしないように土方は挑発するような目でねっとりと親指を舐め回し、ちゅる、と軽く吸い付いてから唇を離した。

「なぁ、さかた。…いいかげん、さそってんだって、きづけよ」

このにぶちん、はぁと湿った吐息と共に欲に濡れて低く掠れた声を耳に流し込まれ、そのまま耳朶を甘く噛まれた。ぞくぞくと全身を駆ける悪寒にも似た痺れ……って、え?

「おまえのきもちなんてただもれなんだよばーか。ていうかなんでこんなろこつにさそってんのにきづかねーんだよおまえ」

呆然と、土方の言葉を理解する。誘ってた?え、じゃあさっきのアレは酔って甘えてたわけじゃなく抱きついていた、と?

「ひじかた…?」

ぶちぶちと音を立てながら、理性の糸が千切れていく。

「おれも、おまえがすきだって、いってんだよ」

ちょっと照れたような土方の顔がどんどん近づいて、ちゅ、と唇に柔らかい感触。ぷつ、と音がして最後の糸が切れ、それ以降のことはあまりよく覚えていない。
とりあえず、脱がせたとき土方のパンツが既にどろどろだったことと、羞恥に染まった顔は想像よりも何百倍も可愛かったことだけは明記しておこうと思う。

ついでにこれは後日談なのだが、両想いだったことが嬉しくてつい偶然遭遇する度にちょっかいかけてたら突然路地裏に引っ張り込まれて真っ赤な顔した土方に「てめぇはちょっとしたスキンシップのつもりでも、相手にとってはそうじゃないこともあるんだよ慎め歩く18禁!」と罵られ外ではおさわり禁止令を出されてしまった。解せぬ。