客坂田→行員土方設定(たぶん) その男は、毎週同じ曜日に必ず預金しにやって来る。 「あ、土方さん。今日もきたよー」 預金額はまちまちで、下は小銭から上は精々諭吉が2、3人。子どもが貯金箱に入れる程度の額なのにわざわざ銀行までやって来るソイツ。 「どうも、また来たのかアンタ」 「今日もつれないねー土方さんは。だがそこがいい。ツンデレ万歳」 「すみませんが日本語で喋って頂けないでしょうか」 ソイツ、坂田銀時は、何故か俺の窓口にしか並ばない。 「あ、おにーさん。俺口座つくりたいんだけど何したらいいかわかんないから教えてくんね?」 「口座開設のお手続きですね。印鑑と身分証明書はお持ちでしょうか。」 それが、坂田銀時との出会いだった。それ以来坂田は必ず俺の窓口にやって来るようになった。最初に応対したのが俺だったからかとも思ったが他が空いているのにわざわざ並ぶ意味がわからない。 坂田は、ただでさえ特徴的な男だった。眠そう、というか全くやる気の見られない死んだ魚のような赤い瞳とあちこちに跳ね回った銀髪。足繁く、というか毎週月曜に必ずコンビニ袋を携えてやって来るソイツは他の客と比べてかなり異質だった。 透ける半透明の袋のから、すぐにジャンプの人、なんて名誉なんだか不名誉なんだかわからないあだ名がついた坂田はすぐに小さな銀行の月曜日の名物として少ない職員に記憶された。 最初に口座を開いたときに預けた金額こそそれなりの額だったものの、その他は毎回まちまちで。こう毎週では逆に面倒ではないだろうかと気にかかり、とりあえずどういうつもりなのかと聞いてみることにしたのが、3ヶ月目。というか、今日。 「坂田さん。預金っていうのはATMからでも出来るんですよ?」 きょとんとした坂田にああやはり知らなかったのかと納得する。だが、 「いや、それくらい知ってるけど。」 何を言ってるんだという表情に土方の表情も怪訝なものになる。 「じゃあなんでわざわざ来るんだよいちいち伝票書くの面倒だろ。」 「あー、それは、さ」 坂田はふと通帳に視線を移し、それから土方をちらっと見上げてから言葉を紡いだ。 「俺、万事屋って事業立ち上げてんの。コレはその依頼料で、手元にあると使っちまいそうだし、小まめに預けに来てんの。」 「へぇ。ヨロズってことは何でも屋か。でもそれならATMからでも」 「ていうのは口実で。」 「え」 「土方さんに会いに来るために、汗水垂らして働いてるっつったら…どうする?」 「…は?」 バッと顔を上げると、坂田は真剣な表情で。若干頬が赤いもののいつものやる気のない瞳は煌めいていた。 「なぁ、土方さん。」 好きなんだけど。 なんだどうしたいつもの死んだ目どこいったと戸惑う土方に投げられた言葉からは真っ直ぐな気持ちが滲んでいて、理解した瞬間、カァァッと熱が上った。 「ほほほほもかテメェ!というかおお俺はそういう冗談は嫌ェだッ」 「…え、何その過剰反応。てか俺ノーマルだし。でも土方さんなら全然イケそう。ていうか啼かせてみたいんだけど今夜一発どう」 「死ね!!!」 今の自分の顔はきっと茹で蛸のようだろうと思いつつ、処理の終わった通帳を突き返す。 と、坂田は何を思ったか通帳ごと土方の手を両手で包んだ。つつ、と手の甲をなぞる指先に土方の肩がびくりと跳ねたのを見て少し目を丸くしてあと、にや、と笑った。 「かっこよくて真面目で怒りっぽくて優しくて親切な男前のくせにツンデレでうぶで敏感とか。ますます、俺好み。」 「…〜〜ッ離せくそ天パ!!」「はいはい。じゃあ土方さん。また来週ね。」 「二度と来んな!」 意気揚々とビニール袋を揺らしながら自動ドアをくぐる坂田の後ろ姿を睨み付ける。 仕事中いきなり男に告白されたのに全く嫌悪感がないだとか、変に鼓動が速いとか、やたら顔が熱いとか。坂田の真剣な表情が、真っ直ぐな声が、手の感触が目に耳に肌に焼き付いて離れないとかそんなことにはまだ気付かないふりをして。 とりあえず今は通帳の代わりにいつの間にか握らされていた、見慣れた字で電話番号とアドレスらしき羅列が綴られたこの小さな紙をどうするか、土方はその優秀な頭を抱えるのであった。 |