4/1 | ナノ
屯所に押し掛けても追い出されなくなったのは果たしていつからだっただろうか。
それどころかいちご牛乳と茶菓子まで用意してくれる。ちなみに今日の茶菓子はどら焼きだ。桜の焼き印が押された生地の中にはたっぷりのあんこと桜の花の塩漬けが入っていて、なんと言うか、春の味がした。
全く、こいつも出来た部下を持ったものだ。ジミー君曰く俺がいると土方が大人しいからありがたいのだそうだ。
「テメェいい加減帰れ」
「邪魔してねぇだろ?」
「存在が邪魔だ」
「ひっでえ」
土方の部屋に面した縁側に横になり二個目のどら焼きを頬張る。
このどら焼きもいちご牛乳も、本当は土方が用意したものだと知っているし、それが仕事で会えなくなることが多いコイツなりの気遣いだということも知っている。
まあそんなこと言おうものなら次に来たときから茶菓子が用意されなくなることは目に見えてるから何も言わねぇけど。
「なぁ、桜きれいだぜ?」
「俺は毎日見てる」
「まあお前の方が何億倍もきれいだけどね」
「うぜえ寒いきめえ」
そう言いつつ土方の頬はうっすらピンク色に染まっていて、素直じゃねぇなと思いな指に付いたあんこを舐め取った。
「なあ土方」
「あ?つーかそこ閉めろ。花びら入ってきてんだろうが…」
「花見だからいいんだよ。あ、それでさ」
土方はテメェが掃除しろよなと呆れながら紫煙を吐き出し、再び仕事を再開させてしまう。しかしまあ、それもいつものことなので俺は大して気にも留めずに話を続けた。
「俺さ宇宙人なんだよね」
ぽそりと呟いた言葉に土方は眉を寄せて振り返り、壁に掛けてあるカレンダーを見て一人で納得すると短くなった煙草を揉み消して鼻で嗤った。
「やっぱり宇宙人だったんだな。そのくるくるの髪とか人間の遺伝子には組み込まれてねぇもんな」
「……」
もっと面白い反応するかと思っていたんだが流石に付き合いが長いだけあって俺の性格を熟知している。
つーか可愛くねえ。可愛いけど可愛くねえ。
「…いやーさっきのは冗談でー、俺本当は人間なんだよね」
「へえ、俺はてっきり宇宙人だと思ってたぜ。くるくる星の」
「おい、なんだくるくる星って。それはあれか頭のことか?」
「は?髪に決まってんだろ」
「…お前ムカつくな。なんか、ムカつくな」
わざとらしく唇を尖らせていじければ土方は眉を寄せてテメェの顔のがムカつくわなんて失礼なことを言いながら煙草を揉み消した。
「とか言って土方くんは銀さんの髪大好きだもんねー」
「あ?」
「そのくるくるに顔埋めて寝るのは誰だっけ?」
「さぁ、誰だろうな」
どうやら今日はとことん流すつもりらしい。全くもって面白くない。
今日から四月で、エイプリルフールで、春で桜が咲いてて暖かくて、気分が良いからわざわざ土方をからかいに来たというのに、これじゃわざわざ来た意味がなくなってしまう。土方には初心を思い出して貰い、銀時なんて好きじゃないんだらねっ!くらい言って貰わないと困る。
「ねぇ、土方」
「…今度はなんだ」
心底呆れた顔で振り返る土方の目の下にはうっすらと隈が浮かんでいて、働き者の副長さんを少しでも寝かせようと考えながら、銀時なんて好きじゃないんだからね作戦に移ることにした。
「俺、土方くんのこと愛しちゃってるんだけど」
土方は少し驚いたように片眉を上げて何かを考えるような素振りをすると、新たな煙草に火を着けてゆっくりと紫煙を吐き出した。
「知ってる」
呆然とする俺に満足そうに口角を上げてそれがどうした?と首を傾げる姿は大層色っぽい。
「…お前なんでそんなイケメンなの…お前がそんなにイケメンじゃ銀さん立つ瀬ないっていうか、困っちゃうんだけど」
「なんだテメェ俺に抱かれたかったのか?」
「いやごめん、それはない」
顔を青くしてぶんぶんと頭を振る俺に土方は冗談だよと笑いながらシャツの腕を捲った。
「銀時」
「なんですかイケメンな土方くん」
「これ終わったら明日はオフだからいいこで待ってろよ」
「…まじでイケメンすぎて困るわ」
ピンと伸びた背中に抱きつくと、土方はくつくつと笑いながら好き勝手に跳ね散らかる髪をわしゃわしゃと撫でて、お前やっぱりくるくる星から来たんじゃねぇのなんて可愛くないことを呟いた。
それでも、隈が出来るまで働いて休みを取ってくれるイケメンな恋人を、取り敢えず今日はこの腕の中でよく眠らせてやろうと思う。
end
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