\パーンっ/ | ナノ
 
※自問自答副長



「俺の武士道だ。」

ばっりーん

凄まじい衝撃音。次いで変な音をたてながら、どんどん大きくなる心音が、響く。

「…ッ、」

俺は、堪らず何かを伝えようと口を開き、


そこで、ばっと跳ね起きた。
どくどくと耳元で鳴る心音。また、あの夢か。

二三度頭を振り、はっきりとしてきた頭で考える。ここは屯所で、副長室で。
確か俺は、最近なんか眠れなくて、デスクワークはかどらなくて、イライラしすぎて煙草の消費量が増えて、でもイライラは収まらなくて、ついには頭痛までしてきたもんだからもういい休憩だって横になって…

つい、寝入ってしまったのだろう。と言ってもさっき見たときから時計の針は30分も進んでいないのだけど。

普段職場で居眠りなど断じてしないのだが。己の失態に内心舌打ちしながらも、つい、だって、と言い訳が浮かんできてしまう。だって、仕方ないのだ。部下や上司をフォローしてまわり、得意ではない書類仕事は毎日山のようにあるし、もちろん剣の稽古の手を抜くわけにはいかないし。毎日くたくたになるまで働いて、体は睡眠を欲しているのに、何故かここ最近、なかなか眠れないのだ。

原因はわかってる。

最近なかなか寝られないのは、銀髪の男。正確にいうと、銀髪の男が出てくる己の夢のせいだ。

もう1月ほど前のことなのに、頻繁に夢で再現される屋上でのやりとり。

まっすぐな目をした男の言葉。何かを言おうとして、何かを言わなくてはと思って、口を開きかけた瞬間跳ね起きる。
がばりと起きたら何故かいつも鼓動がバクバク言ってて、いくら寝返り打とうが寝むれやしねぇ。

何故か、

ドキドキバクバクと忙しなく鳴る鼓動は斬りあいで乱れたそれとは違って。こういうの、なんていうんだっけ。………あ、ときめき?

いやいやいや、待て俺。ちょっと待てって。
ときめきって。いい年した男がときめきってなんだそれ。でもそれが一番しっくりくる気がする…よう、な?

…いや、いやいや。いやいやいやいや。それはない。それはだろ俺。いや、ないだろおおおお。
確かに、あっさり負け…いや、刀折られただけで負けては…悔しいがこれはどう見ても俺の負けか。や、負けたなんて認めないけど。そういやアイツ相当な手練れっぽかったな…あああ、もうこの際それは一先ず置いといて。…悔しかった、な。決め台詞じみた言葉まで吐かれて。でも、不思議と嫌な感じじゃなかったよな。


そうだ、あの目が悪い。池田屋ン時は死んだ魚みたいな目ェしてやがったくせに。あんな強く真っ直ぐに俺を射抜いた瞳は見たことがなかった。胸の奥を焦がすような、強い紅。いや、待てって俺。何この思考気持ち悪っ!だいたいあん時は煌めいてたが資材落としたときとかは浜辺にうち上がってそのまま乾燥した魚みたいな目ェした奴だぞろくな奴なはずがねぇだろ。

ま、まぁ、もう会うこともないだろうし、

ずきん

いやいやいやなんだよずきんって。会えないのが嫌だってか?俺が?なんで。冗談だろ。どうでもいいじゃねぇかあんな奴、

ずきん

なんでちょっと悲しいとか思ってンの俺ェ!?待て待て待て。
なに俺。アイツに構ってほしいのか?それとも認めて欲しい?
………マジか。しかも、コレは、アレだ。もっとアレな感じだ。

…名前、呼んでほしい、とか。
笑いかけてほしいとか、色んな話したいとか、…触れてみたい、とか、だ…抱き合いたい、とか。

うわぁ…マジかよ俺。

2回しかあったことのない銀髪に、惚れた?


「アレ?どうしたんですか?副長。そんなところで寝転がって。」

「……ンでも、ねぇよ。」

「なんでもって…うをッ!?…」

「?どうした山崎」

「ふ、副長、たた体調でも悪いんですか。」

「あ?」

「顔、真っ赤です。」

「ア?…ぅ、…ッ」

「え、ちょ、副長ぅぅぅ!?」


止められない思い
(気づいてしまったが最後)




副長は知恵熱出してぶっ倒れました。by山崎退