ホワイトデーと甘い宝石 | ナノ

お礼として渡されたそれは安っぽい蛍光灯の下でもキラキラと輝いた。

小箱の中のダイヤモンド。何カラットするかもわからないほど大きく、美しい輝きを放っているコレは精巧なイミテーションでなんと飴なのというから驚きだ。お値段は全く可愛くないそれを平然と買い込み、投げて寄越した 土方のすまし顔がすごく腹立たしかった。義理チョコのお返し忘れて焦ってるような男がついでで思い出した本命へのお返しに送るようなモンじゃねぇだろと思わず突っ込んでしまった。

アイツのことだからしれっと渡すんだろうなーこの間は、ありがとな。これよかったら…とか言ってさーくっそ腹立つ。 当然女の子は驚くわけよ。で、飴もらっちゃった〜さすが土方さんよね〜フラれちゃったけど告白しても無下にしないどころかこんな素敵なお返し貰えるなんて〜さすがイケメン〜やだすっごーいなにそれかわいーってキャーキャー言われるんだぜ?それ教えてやったの俺ですけど?しかも課の女性陣連名の義理チョコへのお返しのついでですけど?って言ってやりたいぜ全く。イケメンってやつは何やっても評価あがりやがる。全く、不平等な世の中だ。こっちは結構前からなんやかんや考えて万人受けするモ〇ゾフのクッキーの詰め合わせにしたのに。人が無難だなんだ言われようと堅実に選んだやつを差し置いて すっかり忘れてて青い顔して泣きついてきたような奴が評価されるこんな世の中じゃ。…だいたいなんだよアイツ。どうせいっぺん食べて見たかった、とかなんだろ?って。得意気な顔しやがって。最初に説明したよな、こういうのは誰とも被らないハイセンスさかどれだけ被ってもいい王道中の王道にするべき だって。確かにチェックはしてたけど。財布と相談してやめましたけど?ねだったわけじゃないのに得意気にさぁ。本命チョコ渡してきた女と同じもん寄越すってのはちいとばかり配慮に欠けると思わないのかねぇ。…ま、思わないだろうけど。何にも、知らないし。アイツ。あーあ、ヤダヤダ。

宝石だったら寄越されるわけ無いけど。宝石だったらどれだけ良かったか。賞味期限がどれくらいだか知らないが永遠に手元に残せる訳でもなけりゃ、簡単に割れるし溶けてなくなるようなもん寄越されちゃ、指1本触れねぇように箱にしまってうっとりケース撫でながら眺めることくらいしか出来やしねぇ。 いっそベッタベタに溶け出すまで触って、舌でねぶって歯を立てられたら。それは一体どんなに甘美な味がするのだろう。

「…勿体ねぇ、よなぁ」

この間、偶然であった時に疲れた顔してたから押し付けたチロルチョコをアイツはきっと覚えてない。だから、これに深い意味なんてない。わかってる。わかってる。

「…全く、罪な男だよ。」

いい年こいたおっさんの純情を弄ぶなんてなんて悪い男なんだ。頭の回転がはやく、客観的な事実を捉えた上で計算づくで行動を起こせるくせに、妙なところで天然で、無自覚に他人を振り回す奴だ。罪な男。振り回される身にもなってほしい。心臓がいくつあっても足りなやしない。

「くそ、」

勿体なくて食べられない。惚れた相手から貰ったものを後生大事に取っておきたいなんて女々しい考えだとわかっている。それでもこのケースを開けることが出来るのは、きっとずっと先なのだろう。いつか劣化してしまう輝きを昇華できる時、この飴の味はあまいのだろうか。

「きっと、泣くほどしょっぱいんだろうなぁ」

はは、と乾いた笑いが零れる。とりあえず明日は土方を構い倒そう。これを選んだきっかけが俺だって忘れないように。もし本命チョコの誰かとくっつくきっかけになる時、その馴れ初めに自分の入り込む隙間が少しでもあるように。嗚呼、女々しすぎて涙が出るわ