「なぅん?」 「お、いたいた。」 ある日、外に食料を探しに行って戻るといつものベンチに座った銀髪。神出鬼没な銀色にはもういい加減慣れたが、この日はいつもと何か違っていた。 「…(ジー)」 「ん?コレか?」 手袋(あ、コレ知ってる「ぐんて」って奴だ)をはめた手に持っているのは、先が2つに分かれた長い棒に丸い刃物がついた変な物体。 他にも箒やらごみ袋やらが近くに置かれている。 「にゃぁあ」…てめぇ、何する気だ。 「やー、あまりにもココ荒れ放題なもんだから、近所のババアから依頼が入ってよぉ」 公園の整備をしに来たのだと、男は言った。 「いやいやめんどくさいんだけどね。」 でもやらねーともうツケでは飯食わせねーし今までの分きっちり耳揃えてすぐに払えとか言われてよぉ。うちには口煩い眼鏡と大食い娘にデカ犬までいやがるからそんな金ねーんだよ。 つーわけで、今から草刈りやらなんやらするけど、いいよな? 「…、にゃ!?」は、はぁ!? 常々思っていたが、コイツは口から生まれてきたんじゃないだろうか。気が付くといつも丸め込まれているような気がする。 理解するまで数秒。呆けていた俺は、 「つーわけで、」 「にゃう!?」 たいした抵抗もできないうちに抱き上げられ、 「お前はこっちな。」 男の懐に入れられてしまった。 「にゃ、にゃー(うごうご)」 「こら。危ないからじっとしとけ。」 落ちるぞ。と着流しの上から優しくポンポンと叩かれると、なんとなく動けなくなった。理解も納得もできないけどただひどく居心地がよくて。ついなんとなく、不安定な布の中でそっと丸くなってしまって。 甘い匂いのする布越しに空気が少し柔らかくなって、銀時が笑ったような気がした。 「………にゃ、」つ、つーか、なんで俺がこんなとこに入らなきゃ、なんねー 笑われたことに少しの羞恥を覚え、ようやく頭が動くようになって反論しようとした。が、 ブィイイイイイイイン!! 「にゃあ゛!?」 いきなりの機械音に、硬直してしまった。 「ぁ?あーそっか。」 コレな。草刈り機って奴だよ。 しっかり着流しにしがみついた俺に、柔らかく笑みを含んだ声がかかった。そっと顔だけ覗かせると、下では高速回転する刃。 猛烈な音を立てながら回る刃は、伸び放題だった雑草を蹴散らすように刈っていった。 「に、にゃあ…っ」な、なんだコレなんだコレなんだコレっ! 「あー、そんなにビビんなよ。」 上に居れば大丈夫だから。な、暴れんなよ。落ちたら怪我すんぞ。 笑みを濃くしつつ、しっかりと戒める声に、あぁ、と納得し、同時に強ばっていた四肢からゆっくりと力を抜いた。この男は存外優しいから、俺が出てくるのを待っていたのだろう。というか、たかが野良猫に気を使うなんて、コイツもしかしたら呆れるくらいお人好しなのか。 「にゃー」…しかたねーな。早く終わらせろよ。 なんというか、気を使われるのは悪い気はしない。じんわりと広がった暖かな気持ちがなんなのかは知らないが、抵抗する気は失せてしまった。このままコイツのやりたいようにやらせるのも、いいかもしれない。なんて思いながら目を閉じた。 「そうそ。じっとしてろよ。」 しばらくしたら下ろしてやるから。 なんて、少しだけ嬉しそうな色を滲ませた声を聞きながら。 |