生え際感じるデコ方さんとエセシリアス | ナノ

※時系列?こまけぇこたぁいいんだよ!!!←







「っ、」

せっかくセットされていた前髪が見る影もなくぐしゃぐしゃになっている。睨んでくる瞳に浮かぶ涙も相まって抜群の破壊力で理性を襲う強い眼光をゆるく受け流し、下ろすと途端幼くなる目にかかる長さの前髪をそっと横に流すと5年の歳月を経て老けるどころか熟成され洗練された男の色気を醸し出している整った顔がぴくりと少しだけ強ばった。

「なに、生え際もイイの?土方。」
「なッ、ちが、ァ」

囁きながらゆっくりと前髪を掻き上げてやれば呼応するようにびくびくと細い腰が震える。自分の記憶の中では確かに前髪隠されていたはずの真っ白な額。乱れた髪が彩るそこに滲んでいる汗が間接照明の光を反射する様は酷くいやらしい。

「ど?久しぶりの銀さんの味は」

汗の滲むこめかみを親指で擦り、形のいい耳に舌をねじ込む。ん、と掠れた声が空気を揺らす。きゅう、と締め付けてくる熱い体内にこいつは5年経ってもこっちの口の方が素直なのかと苦笑がもれた。

「やーらしいカラダ。5年間、もて余したりしなかった?」

ぐちゅりと水音を立てるように腰を回せば、涙に滲んだ黒曜石はそれでも尚鋭くこちらを射抜いて。

「ッるせぇ」

肩を掴む手がギリと音を立てる。痛いくらいのその力は決して離さないとでもいうように強く。泣きたくなるくらい必死で、そのままの力で心臓を締め付ける。

「なに、寂しくて一人でシたりしてた?」
「ッれが、んなことするかっ」
「ッ…お前さ…ほんっと、こっちの口は正直な」
「ひ、ィ…あッ」

食いちぎられそ、と呟きながら土方の腰を抱え直す。

「ッ土方、」
「っる、せぇ」
「ひじかたっ」
「も、黙れっ」
「とおしろう」
「…さっき、からッ…ぎゃーぎゃー、っせぇんだよ」

発情してんなら、無駄口叩かず集中しろや。と噛みつくようなキスに面食らって瞬けば、挑発的に笑う、顔。

「…っとに、かわんねぇな」
「…お前は、昔のまんまだけどな」

懐かしむように差しのべられた手に、そのあたたかさに、込み上げる感情。ぐっと奥歯を噛んで耐えるが僅かに強張ったのは目の前の男には筒抜けだったようで。

「馬鹿野郎が。…それは、お前が背負うもんじゃねぇだろ」
「でも、」
「でもじゃねぇんだよ。」

ぺしりと額を叩かれる汗だくで心なしか萎れた天パをくしゃりと掻き回せば泣くのを堪えるような瞳と視線がかち合う。

「ありがとな」

ぐっと噛み締められ唇に、そっと触れるだけの口付け。頬に添えられた掌に自分のそれを重ねる。

「でも、大丈夫だから。」

最後に、ちゃんと抱いてけ。5年、放たらかにしたんだから、埋め合わせぐらいしっかりしろよ。

「…おう。」

ぎゅうと抱き締める力は強く、記憶に埋もれ忘れかけていた体温で。全身を包むのは、忘れようとしていた汗と混じっているのにどこか甘く感じる香りで。

「ぎん、ぎんとき、」

愛しい、とそう感じる名前を久しぶりに音に乗せる。

ありがとな、あいつに終わりを与えてくれて。

震える喉につかえた言葉を飲み込んで笑って見せれば頬に水滴が落ちる。唇を噛み締め、口に出せない感情をぶつけるように激しく動き出した男を受け入れながら、自分の目からも同じものが流れるのには気付かないふりをした。







なにもできなかったと唇を噛んだのを知っている。お前は、昔も今も酷く優しい男だから。自分を殺すという業を、誰にも背負わせないために自分自身を呼んだのだろう。馬鹿な男だ。それくらい、いくらでも背負ってやるのに。

何を思い、それに応えたのだろう。何を思い、自分を殺す決断をしたのだろう。

自分で全てを背負い込んだ馬鹿の気持ちなんてわからないけれど。

「お前のお綺麗な自己犠牲の上で、のうのうと暮らすなんて。そんなのくそ食らえだっての」

煙草の煙を吐き出しながらそっとぬくもりの冷めたシーツを撫でる

「まぁ、待ってろ。すぐに行くから。」

お前の大切にしていた子ども達がこのまま黙っているはずがないだろう。お前を慕っていた者達が、こんな未来を受け入れるはずがないだろう。全く馬鹿ばっかりだ。自分がその馬鹿の一人であるのは本当に残念だが。

「お前の思い通りにはさせねぇよ。」

大馬鹿野郎に思い知らせてやらないといけない。そんなこと許す訳がないのだと。だって、お前のいない未来なんて誰も望んでいないのだから。