夜の八時を少し過ぎた頃、何時もと同じように貰った合鍵で見慣れた扉を開け見慣れた部屋に入る。
「居ないのか…?」
部屋は薄暗く、少しだけ肌寒い。
ひたひたとテレビが置いてある部屋に入れば部屋の隅には赤い色のクッションが何時も通り置かれていた。
仙道は少し考えて、隅のクッションに手を伸ばしテレビに背を向ける形で横になった。
きっともう直ぐ帰ってくるだろう…。
「…ん……ん?」
ゆるゆると瞼を開け握っていたCCMに目を向けると夜八時半を回っていた。
耳には蛇口から出ている水の音が聞こえてくる。
「ユジン…?」
「あ、仙道君起きましたか?」
キッチンからユジンが仙道を覗くとにこりと微笑む。
「何時帰ってきた?」
「今帰ってきたばっかりですよ」
「残業?」
「いえ、ちょっと買い忘れでスーパーに。」
「そう。」
ごろんと寝返りをうとうとするとはらりと腹部に掛かっていたものがずれたので、仙道はそれを取りかけ直そうとするとそれはユジンが何時も着ている赤いジャージ。
「これ…」
「ああ、あったかくなったからといってそのままでは風邪引いてしまうと思いまして」
よく見ればユジンはジャージの下に何時も着ているTシャツ姿だった。
「仙道君、来るなら言ってくれれば良かったのに。」
「ああ、言わないで行ったらエロ本の一つくらい転がってるかなって」
「ないですよ!」
こう言う事を言うとユジンは顔をほんのりと赤く染め反発するので見てるこちらは凄い面白かったりする。
クスクスと笑っているとユジンはこちらの部屋に来て寝そべっている仙道の真横に座った。
「もうすぐ出来ますから…仙道君も食べますよね?」
「…ああ。」
ふと、仙道は腹部に掛かっていたジャージを顔に持っていきスンッと鼻を鳴らした。
「これ、アンタの匂いがするな」
「当たり前じゃないですか、今さっきまで着ていた……ってええ?!かがないで下さいよ!」
「ヤダね」
ニヤリと笑い仙道はそのジャージを抱え込むように抱きしめる。
「ええー…」
直接的にかがれてないが、恥ずかしいらしく頬を染めあわあわとユジンはジャージの裾を掴む。
「仙道君離して下さい…っ」
「ヤダ。」
「うう、仙道君ばっかり…っ」
「じゃあこうすれば良いじゃないか」
そう言うと、ジャージを掴んでいたユジンの腕を掴みそのままグイッと引っ張ってやれば、ユジンは体制を崩し仙道の上に倒れる形になる。
「わ、仙道君大丈夫…っ!」
腕を使い少し起き上がれば仙道が目の前に写る。
ユジンの赤くなった顔をみれば仙道は満足に笑う。
「こ、れは、その…僕が押し倒してる感じになってます?」
「だねぇ…」
クスクス笑いながら仙道は慣れたようにユジンの背中に腕を回せば肩が震えた。
「アンタもやり返ぜは?」
「っ!?出来ませんよ!!」
「何で?」
「な、何でも!」
仙道は一つため息をつくと背中に回した手を頭にもっていけばそのまま手前に動かす。
「…っ」
ちゅっと音をさせ一度だけキスをするとユジンはびくりと固まる。それをいい事に仙道は何度も唇を重ねた。
最後にペロリと唇を舐めて反応を楽しんだ仙道は満足したと言うように唇を離せば舌なめずり。
「なぁ?」
「だ、駄目ですよ!」
「ケチ。」
少し艶を含んだ声で言ったのだが流石にこれだけではなびかないか、と舌打ちをする。
首に手を回しぎゅっと抱きしめていると仙道は今、思い出したようにぼそりと呟く。
「鍋の火付けっぱなしじゃないかい?」
「?!!!」
一呼吸置いて、ユジンは急いで立ち上がりキッチンに掛けていった。
「ああ、煮詰まってる…もー仙道君のせいですよ!」
「人のせいにしないで欲しいねぇ」
ため息をついて仙道はまた赤いジャージに身を委ねた。
誘い受けっぽくしたかった気がするけどなんか違う。
2012/04/13
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