「…っ」
「あ、ごめん」
わざとじゃない。と言ったらわざとだったら許さないけどね。と言われてしまった。
学校の帰りにゲームセンターに寄ったら何時も通り仙道の姿があった。
特に待ち合わせもしてないのだけど、時間帯で大体彼がどこにいるか分かるようになった。
何時ものように私は声をかけようとしたのだけれど…とても普通のテンションでかけられる雰囲気では無かった。
Dキューブ越しに仙道は相手の胸ぐらを掴んで今にも殴りかかろうとしていた。
周りの客はあまりの仙道のオーラに固まり止めに入るものがいないのである。
「ちょっと仙道?!」
「ああっ?!」
少し怒りをちらつかせ名前を呼ぶ、そうしたら相手の胸ぐらを掴む仙道は私の方を向き睨んで怒鳴ってきた、その頬には一筋の傷があるのが目に入る。何時もとは違う怒り方で凄く恐くて私の肩が強張っていくのが分かる。
これでは誰も声がかけられないのも納得出来る。
「仙道…っこんな所で止めなさいよ!」
「お前には関係ないねぇ、邪魔するんじゃないよ」
仙道は相手むけ拳を降ろした。
本当に殴ってしまったら、親を呼ぶ所の話ではない。きっと縄張りであるこのゲームセンターにだって入れなくなる。
本人だって分かって居る筈。
「駄目っ」
私はどうして良いか分からなくて後ろから抱きしめていた。
すると相手の目の前で仙道の拳がぴたりと止まった。
大きく舌打ちをして相手を睨み胸ぐらを掴む腕をとくと
「俺の気が変わらないうちに早くここから出るんだね」
そうワントーン落とした声で言うと、相手は後ずさってゲームセンターから走り去っていった。
はあー、と私は胸を撫で下ろして良かったと小さくつぶやく。
「んで、お前ここで何やってるか分かってるのか?」
「へ?」
すっかり何時ものトーンに戻った仙道はニヤリと口をつり上げアミを見やる。
ぽかんと考えて、一気に顔が真っ赤になる。目の前には仙道の背中。アミは急いで仙道から離れた。
通りで周りの視線が気になるわけだわ…。
「ま、俺的には美味しいんだけどね」
「ば、ばっかじゃない?!」
「と、とにかく事情は知らないけど喧嘩なんか駄目よ」
「お節介」
何よと少し睨むと、だらだらと右頬から血が出ているのが目に飛び込んできた。血がなかなか止まらないようでアミは不意に手を伸ばした。
「…っ」
「あ、ごめん…でもどうしてこんな…」
「…あいつ、勝てない恨みからか俺を狙ってきやがってね、せっかく破壊しないでやったのにねえ…」
「痛い?」
「痛いから仕返ししようとしたらお前に邪魔されたんだよ」
ハンカチをバックから取り出し血を拭いてやる…抑えても止まらない。
「仙道」
「ん?」
「手当てするからうちに来て」
パタンと扉を閉めて仙道はぐるりとアミの部屋を見渡す。
「相変わらずの部屋だな」
「はい、そこらへんに座ってて救急箱持ってくるから」
仙道の言葉を無視してアミはさっさと救急箱を取りに行った。
「…」
仙道はベッドに寝っ転がるとハンカチに目をやる。
新しいの買ってやらないとな。
自分の血が滲んでいて、洗濯したってなかなか落ちそうにはない。
「誰が寝っ転がって良いなんて言ったかしら」
「良いだろ、別に何時もここに寝てるんだから」
「…それ以上言ったらもう家に上げないからね」
溜め息をついてぎしり、と音を立て起き上がると仙道は頬の傷がよく見える右側にアミを座らせた。
「痛くしたら許さないよ」
「無理な相談ね」
アミが救急箱から消毒液を取り出して顔をしかめた。
「どうした?」
「…無い」
「は?」
「消毒液切らしてる…みたい…空っぽ…」
「…」
「ど、どうしよう…今から薬局い…」
急いで立ち上がろうとするアミを仙道は思い切り引っ張った。
「仙道?」
「良い方法があるぜ」
と仙道は意味ありげな表情で笑う。
こんな表情の時の仙道は絶対まともな事を考えてないとアミは知っていた。
「舐めてみろよ」
「出来るわけ無いでしょ?!」
やっぱりか!と突っ込んでしまった。
「キス出来んのに頬舐めるの出来ないとか無いだろ」
「…そう言うこと言う?」
「言う」
「…」
真っ赤になったアミは仙道から目をそらし未だに空っぽの消毒液のケースを持っている。
ふ、と短く息を吐き仙道の膝に左手を置いたかと思うと生暖かい感触が頬を濡らす。
少し流れた固まりかけの血をペロリと舐め上げどんどん傷口に近づける。
到達した傷口を舐めれば仙道から小さく息が漏れ肩が震えた。
「…本当にやるとは思わなかったよ」
「なっ!あなたがやれって言ったんでしょ?!」
「まあね、良い消毒になったよ」
ニヤリと意地悪く笑うとアミはなんだか負けた気分になる。
悔しくて救急箱から絆創膏を取り出し乱暴に貼ってやれば少しくらい優しくやれと怒られた。
「川村アミ」
「ん…?」
名前を呼ばれ救急箱を整理してる手を止め仙道を見るとぐるりと視界が変わりいつの間にか目には天井が映る。
「な…にして…」
「何って、こう言う事だろ?」
真っ赤に染めた顔で叫んだ所で迫力なんかなく、近づいた距離も離す事も出来ない、あまり押し倒された状況も把握出来ないまま口を塞がれる。
唇に落ちてきた感触にようやく把握が出来た。
必死に反発するように仙道の肩を手で押し上げようとするが男と女、年のせいで力の違いを思い知る。
アミは諦めて軽く仙道の背中に腕を回した。
「ふ…」
すぐに離されたと思ったら、また角度を変えて塞がれた。
キスなんてしなれていないのでだんだんと息が苦しくなる。仙道の背中を軽く叩けば、唇を離してくれた。
「何時になったら慣れるのかねえ」
「何度したって慣れないわよ」
それは困るんだけど、と下唇を舐められる。大きく開いて酸素を求めている口に仙道はためらいもなく舌を滑り込ませた。
「…ふ…うっ」
慣れたように歯をなぞられ舌を絡ませられ、もう恥ずかしくて何も考えられなくて、夢中で仙道の後頭部を引き寄せて求めてくるのに答える。
長い時間求めて、求め合った気がした唇がようやく離され、唇から糸が引かれる。そしてアミの喉がこくりと鳴った。
「唾液…飲ませるの…最低」
「聞こえない」
上がった息を整えつつ言うと仙道は喉を鳴らし知らん顔。
「なあ川村アミ」
「なに?」
まだ息がおぼつかないアミにイヤーマフを取り耳元で低く囁く。
「いいか?」
「……もう、勝手にしなさいよ馬鹿…」
溜め息を付いてアミは仙道の肩に顔をうずめた。
仙アミの仙道さんは基本的にむっつりなイメージがするね。(え
ただ手当てするアミちゃんとキスするシーンを書いてみたかっただけなんだ。
2011/12/22
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