シンメトリー | ナノ


シンメトリー
※アシンメトリーの裏側


 笹川くんのお父さんは弁護士であった。「人を信じ護る存在になりなさい」と笹川くんを育てて来た。来る日も来る日もそんな事を言われれば笹川くんのような特異な存在が確立されるのも頷ける。正義の道に進むべき存在は真逆どころか掛け離れた世界へ堕ちた。もう悪か正義かわかりゃしない。笹川くんのお父さんの行為は見事裏目に出てしまったという事だ。
 しかしそれこそ笹川くんにはある意味才能があったのかもしれない。そう思い対象者にしては割と長期間観察を続けて来た。僕は正義と悪の中に共存しながらも揺らぐ事なく、しかし傍観者と言うには深く関わり過ぎた。流れ着いた時に見つけた人物が笹川くんであったのは運が悪いとしか言いようがない。観察する分には退屈しないが、話す分にはどれが本心なのか解らず気味が悪い。
 それと違い市原はある意味僕と同じタイプの人間だと思って来たが、やはりどうにも掴めない。言動が読めないし身長の割に身軽に動き仕事をこなす様はとてもあの市原だとは思えない。それ相応に仕事をしてきた奴ならば見た瞬間に接触を避けるのが道理だが生憎今回はそういう訳にはいかないのだ。
 しかしそこまで無理をしてまで遂行する意味はなんだ。僕は自分に問うてみる。危険だと思うなら直ぐに退け、そう言われて来たのに追い求めるメリットはなんだ。
 ……そうだ。少しでも疑問を感じた瞬間に僕は二人から離れるべきだった。笹川くんの最近の様子を見ていればいつか市原と手を組み他を潰し兼ねないなんて至極単純な予測を僕が出来ない筈はない。いや、気付いたからこそ離れなかったのか。
 なんだ。結局僕は笹川くんと同じタイプの人間だ。もしかしたら笹川くんより質が悪いかもしれない。

「……やはり君は優秀なようで」

 僕は、市原と笹川くんに潰された第一の犠牲者であった。





11.04.10

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