アドラスは新一を見て思い出した。
あの時の子供だ。
あの時面白そうだからと生かしておいた子供。
アドラスは声を上げて笑った。
まるでそれがおかしいことかのように…。
「はははっ……あの時の子供か」
「何が可笑しい」
新一は怒りに震えた。
父を、母を殺したこいつを、俺は絶対許さない。
だが、憤りを露わにする新一をアドラスは嘲笑う。
「それで?そんなやつが何しに来た。俺に復讐でもしに来たのか?何の力もないお前が…」
赦せない――
赦さない――
絶対赦さない!
新一が拳銃を懐から出してアドラスに向けた。
そして、怒りに染まった燃え上がる蒼い瞳で引き金を引いた。
何故、こんなやつが生きてて
父さんと母さんが死ななきゃならないんだ!!
パ――――ンッ……と銃声が響いた。
ポタポタと白から赤が伝い落ちる。
新一はそれを見て愕然とした――。
「……っ……」
「…………ぁっ……なんで」
状況を説明すると、新一とアドラスの間にキッドが割って入ったのだ。
強い光を放つ紫に新一は魅入られた。
「あなたは、人を殺すのですか?復讐の為に…。今あなたが銃を撃てばあなたはただの犯罪者と同じです」
――それでも、あなたはここで撃つのですか?
強い瞳に息が止まった。
そうだ、復讐することを誰も望んでない。
父さんも母さんも喜ばない。
だから…
新一の瞳に強い輝きが戻った。
強く光る蒼い軌跡。
「キッド……サンキュ…」
光が戻った瞳にキッドはよかったと思った。
彼には光が似合う。
だから、こんなことで堕ちて欲しくない――。
「あなたは、あなたの信念の元、銃を握って下さい。忘れないで。怒りや憎しみで撃てば、それはただの犯罪者と同じです」
私が盗一に教えて貰えたように。
それまで動かず見ていたアドラスがそこで口を開いた。
「もう、いいか?」
「ええ」
「絶対許さない。お前だけは…」
アドラスがキッドに向かって銃を放った。
さらりと避けるキッド。
だが、その手からは血が伝っていた。
アドラスがキッドに銃を向けているうちに新一が逆にアドラスを撃つ。
こちらもさらりと避けた。
「やるな…」
「お前に褒められてもうれしくない」
アドラスが標的を新一に変えようとした時、頬を銃弾が掠めていった。
「私を忘れてもらっては困ります」
「そうだったな…」
アドレスは頬に伝った血を指で拭って舐めた。
そして銃を持ち直す。
「だが、今度はお前が死ぬか?なぁ、工藤新一」
「てめぇ」
一触即発の空気になったその場で動いたのは誰だったか。
銃声が響き渡る。
一瞬の静寂の末、倒れたのはアドラスだった。
怒りに身を焼かれ、放ってしまった新一は茫然とした。
その腕に絡まる白い腕に――。
「な、で……」
確かに新一は銃を撃った。
だが、直前に割り込んできたキッドに腕を取られ弾は逸れた。
では何故アドラスは死んだのか。
理由は簡単。
キッドが撃ったのだ。
茫然としている新一にキッドは言った。
「あなたは、此方には来ないで下さい」
――闇に堕ちてこないで…
はっとしたように新一がキッドを見上げてくる。
紫色の瞳に脳が焼かれそうだった。
もう誤魔化せない。
互いに惹かれあってることを。
足掻いてもがいて、それでも互いのことを想ってしまった。
あなたは、光の中の方が似合う。
サイレンの音が近づいてきた。
新一はそれにはっとしてキッドを見た。
血に染まった白――。
新一は、立ち去ろうとしたキッドを呼び止めた。
「また、逢えるか」
縋るような蒼い瞳にキッドは目を細めた。
「機会があれば、いつか必ず…」
もう振り返ることはない。
新一ももう呼び止めなかった。
いつか、また逢える日がくるから…。
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