だから、俺は犯罪者を――暗殺者を赦さない。
絶対に何があっても。
そうだ。
何があっても許しちゃいけないんだ。


決意を新たにしたその時、脳裏に白が鮮明に蘇ってきた――。
綺麗な純白に紫色の瞳……、キッド――。
見た瞬間、目を奪われた。
そんなことないと言い聞かせてみても、心は正直だった。
また会いたい。
もう一度見てみたい。
たとえ相手に拒絶されていたとしても…。
ふるりと頭を振る。
考えを振り払うように。


「俺は、犯罪者なんて嫌いだ……」


白い影を消すことができないままその日は過ぎていった。



月の光が差し込むホテルの一室。
キッドは、バスローブを着て浴室から出た。
部屋に備え付けられているワインをソファに座って傾ける。


「新一・工藤……か……」


エジソンを殺した時見かけたFBI捜査官。
蒼い瞳に目が奪われた。
綺麗だと思った――。
だから、なんとなく調べてしまった。
会いたくないと口にしながらも…。



違う世界の人間だってことくらい、俺が一番分かってるのに……。




「…………や、やめてくれっ―――」


男の悲痛な声が響き渡る。
それを無情に見下ろす黒い大柄な男。


「運がなかったと思って諦めるんだな」

「ぅっ、くぁっ………………」


どこまでも暗い闇の中に銃声が溶けて消えていった。
男は倒れた男を一瞥して、呟きを残して消えた。


「つまらんねぇな。何か楽しいことねぇかな――」



同時刻、FBI本部。
新一は警部のところへ途中経過の報告をしにやってきていた。


「何か分かったかね?キッドのこと…」


新一は警部に呼び出されて聞かれていた。
心なしか警部も疲れているように見える。


「すみません、まだ何も…」

「そうか……。引き続き捜査を続けてくれ」

「はい」


出て行こうとした新一を警部が呼び止めた。
警部は新一が子供の時、捜査に携わっていた父の友人だ。
だから、いろいろと心配してくれる。


「工藤君」

「あまり根を詰めすぎると良くない。少しは休みなさい」

「分かってますよ。警部」


新一は笑顔でそう答えた。
パタンと扉を閉めた新一は壁にもたれ掛かり自嘲気味に呟いた。


「そんなに、顔に出てるかな……」


新一はここのところ休まずに仕事をしていた。
それは、キッドのことだけが原因じゃなくて、そう…。
部署に戻った新一に噂話が聞こえてくる。


「なぁ、新しい暗殺者が来たらしいな――」


ピクリと新一の手が震える。
それでも平静を装ってデスクワークを続ける。


「たしか名前は……」

「アドラスっていうらしいぜ」

「キッドに続いてまたかよ。いい加減にしてほしいぜ」

「でも、俺たちが対峙するかもしれないんだから気を引き締めて……」


ガタリと新一は席を立ってその場を離れた。
あのままあそこにいたら怒鳴りつけて八つ当たりしてしまいそうだったから――。




俺は親のいない子供だった。
物心つく頃には、既に手を血で染めていた。
それしか術がなかったから。
生きるために仕方なかったといえばそうだろう。
でも、あの頃の俺はそれがどうしても嫌で人を殺すくらいなら自分が死のうと思った。
自分が死んでも誰も哀しまない。
だから、もういいよねと思ったんだ。
その時、あの人と出逢った…。







「何をしてるんだい」


びくりと快斗は震えて手に持っていたナイフを握り締めた。
怯えた手負いの獣のように相手を見つめる。


「だれ――――」


警戒して、快斗はその人を睨みつけた。
それに、その人は苦笑してゆっくりと近づいてきた。
ナイフをその人に向けて、快斗は威嚇した。


「こないで」

「何故だい?君は見たところ死のうとしているように見える」言い当てられて、そのことに驚いた。
なんでそんなこと解るんだ?
なんで……。


「……な、んで……」

「君の顔を見ればわかる。やめなさい。君にも大切な人くらいいるだろ?その人が悲しむ」


その人が手を伸ばしてナイフを取ろうとした。
瞬間、快斗は驚いてその人の腕を切りつけてしまった。
そして、快斗は叫んだ。


「そんなのいない!!人を殺してきた俺に大切な人なんて…。俺が死んで悲しむ人なんて…。俺なんて――――死んじゃえばよかったんだ!!」


俺に大切なものを作る資格なんてない。
いままでたくさんの人を殺してきた。
そんな俺が生きている意味が何処にある?
何も知らないくせに、勝手なことばかり…。


「そんなことはないよ。君が死んでしまえば、私は悲しむ。君は、もう少し自分の命を大切にしなくてはならないよ」


柔らかい笑顔で男は言った。
ぽんぽんと快斗の頭を撫でて、慈しみような表情を向けてくれた。
驚くのと同時に涙が流れて頬を伝った。


「でも、おれが…ひ、とを…ころした、ことに…ちがいは、ない…。よごれて、るんだ…おれは……」


汚い汚れた手。
どんなに洗っても落ちることはなかった。
こんな手なんていっそ…。


「大丈夫。君の手は綺麗だよ。汚れてなんていない」


血が流れて続ける手をそのままに男は快斗を抱き締めた。
胸のつかえがとれたように涙がぼろぼろ零れ落ちてくる。


「行くところはあるのかい?」

「…な、ぃ……」

「そうか。私は盗一。黒羽盗一。君の名前は?」


何故そんなことを聞くのか解らずに、快斗は?マークを浮かべた。







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