今まさに撃たれようとしていたハンド・エジソンの前に新一が飛び出した。
キッドが眉を顰める。
「どいて下さいませんか?」
「嫌だ」
凄まじい殺気とプレッシャーに新一は気圧されそうになるのを堪える。
キッドはそんな新一へ問いかけた。
「その方に守る価値があるのですか?」
「どんな人間でも、殺していいってことにはならない。それに、こっちの方が人数が多いんだ。ひとりで逃げられると?」
くすりとキッドが笑った。
「何が可笑しい」
「あなたのお仲間でしたら、今頃寝入っていることでしょう。つまり、あなたひとりしかいないんですよ」
ありのままの真実を突きつけるキッド。
はっとして無線に呼びかけても返事がない。
やられたと思った。
コツリとキッドが歩く音が響く。
「ですから、無駄な抵抗は止めて下さい」
「――――嫌だ!!」
キッとキッドを睨みつけて新一はそう言った。
キッドは、それを面白そうに愉快そうに見やる。
「では、どうすると?」
完全に楽しそうに此方の様子を窺ってるキッドに新一は苛立ちを覚えた。
そこで、キッドの殺気に怯えていたハンド・エジソンが逃げようと身を翻した。
「こ、こんなところで殺されてたまるか」
「ちょっ、まっ……」
新一が止めようとしたがエジソンは止まらなかった。
「無粋ですね…」
キッドはそう言って背を向けたエジソンに銃口を向けた。
新一が慌てて銃口をキッドに向ける。
パンッと銃声が響いた――。
「……つっ………」
新一は手を抑えてキッドを見つめた。
キッドはそんな新一に一切視線を向けずにエジソンに銃口を向け直した。
キッドは新一の拳銃に弾を当てて弾き飛ばしたのだ。
エジソンが後ずさる。
「や、止めてくれ」
「やめろ――――!!!!」
新一の叫びと銃声が同時に響き渡った――。
「さようなら――――」
キッドは祈るように目を閉じる。
一瞬、時が止まったかと思った――。
次の瞬間にはエジソンが倒れていた。
新一が急いで駆けつけた時、エジソンはもう動かなかった。
キッドがそのまま踵を返す。
「待て!!――なんで殺した」
「それこそ愚問ですね。私は暗殺者ですよ」
「臓器売買の男を殺したのもお前か?」
「そうですよ。それでは。もうお会いしないことを祈ってますよ」
キッドはそのままその場から消えた。
新一とハンド・エジソンの亡骸を残して――。
それから新一は事後処理を終えて自宅に帰った。
ベッドにどさりと転がる。
「…………キッド…か……」
あの時のエジソンの恐怖に引きつった顔が忘れられない。
何もできなかった自分が歯痒い。
暗い部屋の中、新一はエジソンのことから昔の記憶を蘇らせていた……。
*
新一はその時七歳だった。
明日遊園地に行くのだと、新一は楽しみにしていた。
「早く寝るんだぞ」
「うん、お休み。父さん、母さん」
「お休み、新一」
頭を撫でてくれた父の大きな手が温かくて嬉しかった。
ふと夜中に物音がして新一は目が覚めた。
なんだか家の中が騒がしい。
「父さん……?」
新一が両親の部屋を開けて目にしたものは、血溜まりと倒れ伏した両親と、知らない大柄な黒い服を着た男だった。
「……………だ、れ……?」
新一は後退りながらもその男に話しかけた。
男は底冷えするような冷たい眸を新一に向けて言った。
「なんだ、子供か…」
チャキリと銃口を向けられる。
新一は震えながら心の中で叫んだ。
『父さん、母さん――――助けて……』
ギュッと目を瞑った新一に無情にも銃弾が放たれた。
灼熱の痛みが新一を襲う。
「………ぅっ……ぁぁっ……」
後ろに倒れ込んだ新一に、男がゆっくり近づいくる。
「お前に教えておいてやろう。俺の名前はアドラス。お前が生きていたらまた会おう。生きてたらな…」
そこで、新一の意識は途切れた――。
次に目覚めた時、そこは病院だった。
FBIの捜査官と名乗る人たちが俺のことを保護してくれたのだ。
その時決めたのだ。
FBI捜査官になると……。
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