イギリス、FBI捜査本部。
そこに、工藤新一はいた。
数々の事件や国際犯罪組織・犯罪者を捕まえたり調査したりする。
そこに、今日新しい情報が入って来た。
「ロンドンにキッドが出たんだって」
「まじかよ。一級の暗殺者だぞ…」
ひそひそと噂話しているのが聞こえる。
それに、新一はため息を吐いた。
「工藤君。ちょっといいかな」
「はい…」
警部に呼ばれて、新一は席を立った。
部屋を移動して警部が座ると話始めた。
「最近どうだい?」
「お陰様で」それだけ聞いてから、警部は本題に入った。
「キッドのことを知ってるかね」
「……はい。今ここら辺に来ているそうですね」
「工藤君。君にはキッドの調査をして欲しい」
「俺がですか」
新一は驚いて聞き返した。
「君が適任だと私は思ってる」
「……分かりました」
警部に一礼して新一はそこから自分のデスクに戻った。
資料を広げて見る。
「キッド……か……」
新一は溜め息を吐いて、キッドの情報を集められるだけ集めた。
でも、これといって詳しい情報は集まらなかった。
分かったことは、キッドは裏で悪いことをしているいわゆる悪人しか狙わないということ。
依頼を選り好みしていても、それでも依頼が全く減らないらしいこと。
年齢などの詳細データは全くなし。
仕事には白い衣装で来るらしいこと。
性別は男らしい。
「碌な情報がないじゃないか…」
新一はお手上げだと溜め息を吐いた。
ロンドン郊外。
静かな夜の街に一発の銃声が響き渡った。
あいにく、サイレンサー付きだったので誰も気づかなかったが…。
コツコツと靴音が響く。
その気になれば消せるのにわざと消さずに悠然とその男は歩く。
月明かりに照らされた男は端正な顔立ちで、白いスーツを身に纏っていた。
闇に同化する白―――。
「大したことなかったな…」
その言葉を残して、男――キッドは忽然と姿を消した。
殺人事件が起こって新一は急遽そちらに赴くことになった。
「どうですか?」
「見ての通り証拠も痕跡も全くない。こりゃプロの仕業だな」
そう言って遺体を見せてくれた。
銃痕が一つ。
しかも急所を一撃で。
誰の仕業なんだ?
新一が思考の渦にはまっていると、警官が女性を連れてやって来た。
「この方が、怪しい人影を見たと…」
女性がおずおずと話始める。
それを皆黙って聞いた。
「あの、そこで飲食店をしてるんですが、昨日の夜に偶然外に出たら白い服の男を見かけたんです」
その女性はそう言った。
白い服と言う単語に新一は反応した。
「その男の特徴は?」「あの……暗くてよく見えなかったので」
「…そうですか」
手がかりがと意気込んだだけにショックは大きかった。
結局それ以上の情報は分からずに、捜査は一旦打ち切られた。
だが、新一は気になったことが一つだけあった。
白い服。男。もしかしたら、 じゃないかと…。
まさかな、とその考えを改めた。
でも、被害者は臓器売買をしている悪い奴だった。
だが、それだけじゃ決めることはできない。
先入観は捜査の邪魔をする。
結局、結論付けることはできなかった。
「護衛ですか」
「そうだ」
新一はまた警部の部屋に呼ばれていた。
「俺がですか?」
「頼むよ、工藤君。向こうがきみを指名してきて。まだ、キッドの方も進んでないみたいだし気分転換として」
「分かりました。それでは失礼します」
新一は部屋から出て自分の机に戻った。
護衛をする人物の資料だと渡された紙を見る。
「ハンド・エジソンか…」
碌な噂がない奴だ。
銃器の密売に人身売買。
上げたらきりがない。
「何も、起こらなければいいな…」
呟きは風に溶けて消えた――。
「異常はありませんか?」
「ああ、平気だ」
当日、新一は数人の仲間と護衛をしていた。
だが、それに我慢がならない人物がいた。
「何故私が我慢しなければならないんだ」
ハンド・エジソンが苛ついてそう言った。
「あまり外に行くのは危険です」
「何が危険なんだ。とにかく私は外に行く」
だからと新一が止めようとした時、それを切り裂く冷涼な声が…。
「その必要はありませんよ」
視界を埋め尽くす白――。
いつの間にか悠然とそこに立っていた白い影。
思い浮かぶ人物は、ひとりしかいなかった。
「……キッド!?」
「おや、知ってて下さったんですか?初めまして。キッドと申します」
「何しに来た」
「無粋なことを聞きますね。もちろんそこの方を殺しに来たんですよ。恨みはないですが死んで頂きます」
キッドが銃を構えた――。
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