ウィリアムソンがどいたそこにあったのは、何かの水溶液の中に浮かんだアンジェリカの姿だった。
ぽっかりと穴が開いた瞳。
それに新一は息を呑んで吐き気を覚えた。
そこだけまるで違う空間のようだ。


「事故の時体はなんとか修復できたんだ。でも、瞳だけは無理だった」

「そんなことの為にあんなに沢山の人を殺したのか」


そんなことの為に罪もない沢山の人の命を…。
睨み付けたウィリアムソンは、興奮したように叫び出した。


「そんなことじゃない。俺は、アンジェリカを愛してたんだ。今だって愛してる。愛の前には、些細な犠牲さ」

「お前が持ち去った瞳はどうした?」


新一は被害者からくり抜かれていた瞳の行方を問うた。
吐き気がする。
そこには狂気しかなかった。


「それなら、ここにあるよ。アンジェリカの瞳には及ばないけれどとても綺麗な瞳たちだからね」


うっとりとそう言うウィリアムソンが示した先には、被害者たちの目玉がホルマリン漬けで置いてあった。
それを無表情で見つめながら、新一は冷静に己の立場を考えていた。
このままいけばきっと、いや確実にあれの仲間入りだろう。
なんとか気を逸らさなければ。


「それで?その崇高な行動の結果、あんたの妹はどうなるんだ?」


新一の鋭い蒼い瞳に、ウィリアムソンはうっとりしながら答えた。


「今まで誰の瞳も合わなかったんだ。誰もアンジェリカの瞳には及ばない。でも君なら。君ならアンジェリカによく似合う」

「つまり、俺を殺して瞳を奪うって?」


ヤバいと本格的に焦りながら、内心吐き気を覚えて隠すのに必死だった。
ウィリアムソンが本格的に動きを再開した。


「待ってて。直ぐにあなたも仲間に入るから」


何かの器具をウィリアムソンは取り出す。
ガタゴトせわしなく準備を進める。
そして器具を持って振り返った。


「さぁ、あなたの綺麗な瞳を…」

「…………っ……」


新一の頭の中に咄嗟に浮かんだのは、敵であるはずの白い白い暗殺者の姿だった。
思わず助けを求めていた。


近づいてくるウィリアムソンに、新一はギュッと目を閉じて忠告してくれた彼の名を呼んだ。


――キッドッ…!!


その途端チュインッと銃声が鳴ってウィリアムソンの手から器具が弾き飛ばされた。
手を抑えてウィリアムソンが振り返る。


「………なっ……!?」

「………ぇっ……?」


この部屋の唯一の出入り口の扉に佇む白いスーツの男。
手には、拳銃が握られている。


「こんばんは。その方を離して頂けますか?」

「だ、誰だ!お前…」


そう叫んだウィリアムソンに冷たい殺気が降り注いだ。


「キッ、ド…」


敵であるはずなのに何故か安心した。
強張っていた身体の力が抜ける。
キッドは依然として余裕の表情で銃口をウィリアムソンに向けていた。


「私が誰であろうと貴方には関係ありません。そこを退いて下さい」

「嫌だ!ようやく念願が成就するんだ」


悪足掻きするウィリアムソンに、キッドは更に殺気を向けた。
本能的な恐怖にガタガタと震えてその場に固まるウィリアムソン。
キッドはその横をすり抜けた。



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