新一は問われたことに驚いて息を止めた。
警部を黙って凝視する。
すると警部は表情を笑みに変えた。
それは、苦い苦い笑みだった。


「何故?と思うかね。君を見ていればきっといつかは気づく。君のその瞳。だが、まだ引き返せる。君の瞳は真っ直ぐで澄み渡っている」

「……こんなことは止めろって言うんですか?」


父と母を殺されて、それを忘れてのうのうと生きろと、そう言うのか?
新一は怒りを瞳に宿してガタリと立ち上がった。


「俺は、今でも覚えてる!!血みどろで倒れてた父さんと母さんを…。アイツの顔を…。それなのに…」


怒りで真っ赤に染まった脳裏に警部の穏やかな声が聞こえた。


「でも、君のお父さんとお母さんは――優作と有紀子さんは、そんなこと望まないだろう?」


その言葉にはっとした。
考えなかった訳じゃない。
確かに、父さんも母さんもそんなこと望まないだろう。
でも、それなら、この想いは何処へ行けばいいのだ。
この悔しくてやるせないこの気持ちは…。


「それでも、それでも俺は……」


ぎゅっと握り締めた手が白くなって。
だが、驚くべきことに警部はこうのたまった。


「私も君の両親の命を奪った者が許せない。だから、君が憎く思うことも止められない」

「――へ…?」


ぴたりと止まった新一に警部はクスクス笑った。


「だから、君も存分に憎めばいい。但し、道を間違えてはいけないよ。いいね」

「――はい…」


強い意思を込めて頷いた。
それは約束。
決して道を踏み誤らないという。
最後の防波堤。







朦朧とした意識の隅に、光を感じた。
新一はぼんやりと意識を戻して辺りを見回した。
緩慢に動く頭がずきりと痛む。


「……っ…」


目の前がチカチカする。
そうだ。
俺は確かウィリアムソンの家を張ってて…。


「目が覚めましたか?」

「………あ、なたは…」


薄暗闇にウィリアムソンの顔が照らされた。
起き上がろうとして、新一はベッドにくくりつけられていることに気づいた。


「……なっ…」

「あなたの瞳は、本当にアンジェリカのようだ。とても綺麗に澄んでいる」
新一は、なんとか動こうとしながらウィリアムソンを見上げた。
ウィリアムソンの目には、狂気が走り、新一は思わず後退りした。
無論動けないので気持ちの上でだが。


「あんたが、殺したのか?」


それは、質問の形を取った断定。
蒼く輝く軌跡に、ウィリアムソンは恍惚として答えた。


「そうさ。すべてはアンジェリカの為に…」


ウィリアムソンは話し出した。
アンジェリカとの思い出を。


「アンジェリカは体の弱い子供だった。儚くて綺麗で、意思の強い瞳が印象的だった」


うっとりとしゃべる男に、新一は怖気を覚えた。
こんなの知らない。
自分は、何をしてるんだ?
勝手に動いて勝手に捕まって、自業自得じゃないか。
自己嫌悪に新一は襲われた。


「だがアンジェリカは死んでしまった。これを見てくれ」



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