新一はただそれを茫然と見ているしかできなかった。
キッドがいた場所をじっと見つめる。
さっきまでそこに確かにいたのに…。


「キッド……」


――お前は、何を知ってるんだ?


ぎゅっと手を握り締めて、新一はその場に立っていた。
それを、物陰から見つめる瞳が…。


「ごめん、どうか、無事で…」


囁きは空気に溶けて消えた。







俺を拾ってくれたあの人は、優しい人だった。


「着いたよ」

「…………ここ、」


快斗が戸惑った視線を向けるのに、盗一は一人穏やかに言った。


「私の家だよ、快斗」
「とーいちの…?」


ああと頷く盗一に、快斗は視線を家に向けた。
綺麗な洋館で、少し見惚れた。


「とーいち」


快斗を抱き上げて家の中へ入った盗一は、快斗に呼ばれて振り返った。


「なんだい?快斗」

「何処行くの?」


快斗の質問に盗一はさらりと答えた。
それはもうさらりと。


「お風呂だよ」

「おふろ?」


この後、快斗は深く追求しなかったことを後悔した。


「ゃだ…ゃぁっ…」

「こら、快斗。動くな…」

「だって…」

「動いたら洗えないだろう」


そんなこんなで綺麗に洗われた快斗はリビングに移動した。
盗一のYシャツをパジャマ代わりにして。


「快斗」


火照った快斗に、更に温かいホットミルクが渡された。
ほんのり薫るはちみつの匂いが食指を触る。
その薫りに何故かホッとした。


「飲んでごらん」

「うん…」


たくし上げた袖から覗く小さな手に、カップを持たせる。
裾からは、微かに足が覗いている。
おもわずその可愛さに抱きしめたくなった盗一はその衝動をなんとか堪えた。


「おいしい…」


こくこくと両手でカップを持って飲む様は、まるで天使のようで。
裏でこの子供が何て呼ばれているかを思い出して眉を顰める。
こんなに愛らしい子供なのに…。


「あの、えっと……」

「ん?何だい?」


華が綻んだように快斗が笑った。
それに目を見開いた盗一。


「ありがとう////」

次の日、盗一が目を覚ますと快斗はもう起きていた。
盗一の腕の中で慣れないかのようにもぞもぞ動いて。


「おはよう。快斗」

「お、おはよう、ございます…」


苦笑して話しかける盗一に、快斗は緊張しながら応えた。
頭をぽんぽんと叩いてやる。


「ご飯にしようか」


どうしても警戒心が先に立つ快斗を盗一は優しく見守った。
これは快斗自身が克服しなければならないことだから。
快斗が、盗一のスキンシップに少し慣れて来た時のことだ。


「とーいち?」

「どうした?快斗」


快斗はもじもじしながら盗一に質問した。
それは快斗の中にくすぶっていた言葉。


「俺はとーいちって呼んでもいいの?」



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