何も聞かないでいてくれる優しい人に自分にできる最大のお礼を――。


「工藤君」

「はい、なんですか?」


新一は振り返って質問した。
それに警部は厳しい顔をして言った。


「今回君が担当してる事件、青い瞳が狙われてるんだってね?」

「はい」

「君も気をつけるんだよ」


言われている意味が解らなくて首を傾げる新一に、警部は苦笑して言った。


「君の瞳も綺麗な青色だからね。気をつけなくてはいけないよ」

「大丈夫ですよ」


新一は微笑んで答えた。
心配はいらないと。
だが、まだ心配そうに警部は言葉を重ねる。


「君の瞳はお母さん譲りだ。大切にするんだよ。注意は怠らず」

「わかりました」


そうして警部とは別れた。
ありがとうございます――
ふと、あの優しい犯罪者を思い出した。
ふとした瞬間に浮かぶ優しい犯罪者を――。




「やっぱり……か」


ぽつりと呟いた言葉は部屋の空気に溶けて消えた。
乱雑に散らばった資料の束に、暗い部屋を照らすディスプレーの光が眩しい。その前に座ったキッドは行動を開始した。

「メインシステムにアクセス…」


カタカタとキーボードを叩く音が響く。
そこで見つけた情報にキッドの指が止まった。


「無事でいてくれよ、  ……」


願いを込めて手のひらを握り締めた。




「ここか……?」


新一は薄汚れた建物が乱立する建物の前にいた。
ここが裏で定評のある情報屋の場所。
新一は、意を決して入った。



「ここもダメか…」


新一は肩を落として中から出て来た。
依然として情報が集まらない。
何か、何か見落としがあるはず…。
そう思い悩む新一を見詰める一対の瞳が――。




夜の帳が下りてきた街の中。
新一は人気のない路地裏をひとり歩いていた。
次の瞬間、不意に人の気配が背後に現れて反射的に新一は後ろを振り向いた。


「誰だ!!」


翻る純白。
そこにはキッドが立っていた。
周りに漂う冷涼な気配。
新一はそれに一瞬思考を止めた。


「お久しぶりです」


キッドはその場の空気を壊さないように静かに立っていた。
何故か頭の片隅から消えてくれない存在がそこにいた。
それに茫然としている新一にキッドが首を傾げた。


「どうかされましたか?」


それに、はっとした新一はようやく反応を示した。
紫色の呪縛――。
捕らわれるかと思った。


「何でもない。それより何の用だ」


新一が尋ねるのを待っていたかのようにキッドは言った。


「あなたが、今関わっている事件について…」


新一は驚いたように瞠目した。
何故知っている?
新一は警戒心を強めた。


「何故知ってる」

「何故とは?これだけ大きな事件ですよ?知らないものなどいないでしょう」


キッドは平然とそう答えた。
新一がキッドに一歩近づくと、キッドは微笑んでこう告げた。


「気をつけて下さい。闇は近くにあります。あなたの近くに…。けして囚われないで…」


キッドの真剣な紫色の瞳に射竦められ、新一は動けなかった。
喉がからからに乾いている。
今にも囚われてしまいそうで、それが怖かった。
何故こんなに魅入られるんだろう?


「何を知ってるんだ…?」


キッドは微笑んで気配を消していく。
それに新一はようやく動き出した。
まだ肝心なことを聞いてない。
それに何故かまだそばにいたかった。


「キッド!!」

「気をつけて下さい…。すべてはあなたの近くに……」


キッドの姿は現れた時と同様に、忽然と消えていた。



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