◇幸せだと思ったのに



約束の日−−。
志保は新一と共に待ち合わせのトロピカルランドの前に来た。
あの時、新一は二つ返事で了承したのだ。

「ねぇ、本当によかったの?」
「どうして?」
「だって、」

蘭さんが寂しそうな顔をしてたから。
だから来ないかと思ったのだ。
きっと断るだろうと。
あんなに仲良く話してたから。

「俺は宮野先輩と一緒にいたかったから…」
「馬鹿じゃないの?///」

志保はふいっとそっぽを向いた。
その頬は少し赤い。

「あ、宮野さん!こっち」
「佐々木さん…」

手を振って駆けてきた美絵に志保は微笑を向けた。
美絵には悪いが本当にあの頃を思い出す。
明るく優しかった歩美を−−。

「どうしたの?顔が赤いよ」
「な、何でもないの」

首を傾げる美絵に慌てて志保は思わず腹いせに新一の足を踏んづけてしまった。
それに痛そうに顔を歪める新一。
不思議そうに美絵が見つめてくるのをなんとか誤魔化した。

「みんなは?」
「あそこだよ!」

美絵の指差す方向を見ると確かにみんなの姿がある。
そこへ向かって三人は歩いた。




「おはよう、宮野さん」
「おはよう」

ここに集まったメンバーは比較的無愛想な志保に普通に接してくれる明るくていい子たちだ。
集まってきゃいきゃいやっている姿をみるとやはり和む。

「えっと、それで…」
「はじめまして、工藤新一と申します」
「よろしくね」
「一度会ってみたかったんだ!有名人」

口々に口を開く女子たち。
新一はそれにそつなくかわしていく。

「そんなことないですよ。まだまだ勉強中で…」

内心少し面倒だなと思いながら答えを返す。
調子に乗って痛い目にあったばかりだ。
騒がれても嬉しいとは思わない。
けれど彼女たちはどうやら俺に興味があるんじゃなくて、志保と新一の関係を気にしているらしい。
どうやってはぐらかすか考えていると、須藤が志保の肩に手を掛けたのが見えた。

「おはよう。宮野さん」
「おはよう。須藤君」

和やかに挨拶をしている二人に気付かれないようにそっと背後から近寄った。

「おはようございます、須藤先輩」
「おはよう、工藤君」

さり気なく志保の隣に移動しながら声をかける。
それに須藤はしかめっ面だ。

「今日は楽しみましょうね」
「ああ…」

少し戸惑い気味な志保の手を取って新一はトロピカルランドへと足を向けた。
ぐいっと志保を須藤から引き離す。

「工藤君?」
「何ですか?宮野先輩」

須藤から離れても新一の手は離れない。
それをこそばゆく思いながら志保は引かれるままに歩いた。

「やっぱり付き合ってるのかな?あの二人?」
「怪しいよね!」
「でもお似合いだよね」

きゃっきゃっと騒ぐ美絵たちに漸く我に返った須藤は新一たちの後を追った。

「工藤君?宮野さんから離れないか」
「別に宮野先輩は嫌がってないでしょう?ね、宮野先輩?」

にこりと問いかけられて思わず頷いた。
それに優越感たっぷりに新一は志保と手を繋いで歩いた。
どうしてこんなに心地いいんだろう?
どうしてこんなにドキドキするんだろう?
今はただこのままの関係で、温かくて心地いい空間を壊したくなかった。
だから何も気付かないふりをした。
きっとこの頃から気付いてたんだ。
この気持ちが何なのか。

「ねぇ、ねぇ、宮野さん」
「何?佐々木さん」

志保は首を傾げて後ろを振り向く。
すると美絵がまた顔を赤くした。

「次お化け屋敷行こうよ」
「「お化け屋敷?」」

新一と志保が同時に聞き返した。
それににこにこと美絵は答える。

「うん。新しいアトラクションなんだ。すごく怖いって有名なの」
「そうなの?」
「ね?いいでしょ!!」
「いいけど…」

志保がそう答えると美絵の視線が新一に移動した。
視線で問いかけられて苦笑して頷く。

「いいですよ」
「わぁ!ありがとう」

美絵の大はしゃぎに新一と志保は明るくかわいかった歩美を思い出して自然に微笑みあっていた。
その優しい雰囲気に息を呑む美絵たち。
二人はそれに気付かず場所を聞く。

「それで?どこなの?」
「……ぇ?あ、ここを真っ直ぐ行って右に曲がったとこ」
「あぁ、ここにできたんですか…」

新一が地図を覗き込んで頷く。
それに不思議そうに志保は首を傾げた。

「行ったことあるの?」
「いや、前を通りかかっただけ。母さんがアトラクション好きだったから」
「そう…」






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