◇擦れ違い、傷つけ合う



「おはよう、宮野さん」
「おはよう」
「ねぇ、工藤君とどんな関係なの?」

昨日のことでどうやら盛り上がっていたらしい。
志保はそれにどきりとしながら努めて冷静に言った。

「ただの隣人よ」
「え〜!!でも工藤君そんな感じじゃなかったよ〜」
「うん。親しそうだった」

その言葉につきりと胸が痛む。
親しそうだった?
本当に?
そうだったらどれだけ嬉しいだろう。
その時、横から声がかかった。

「そんなこと言われても宮野さんも迷惑だろ?」
「何よ!割り込んで来ないでよ、須藤」
「そうよそうよ。邪魔」
「須藤君…」

昨日顔を合わせてから何度も話しかけてくる青年。
それに志保は若干の苦手意識を持っていた。
けれど頭のいい彼と話すのは楽。
相手に合わせなくて済むから。
だから意外に親しい青年だった。

「行こう、宮野さん」
「ありがとう」

正直なんて答えたらいいか戸惑っていたのだ。
だから助かったと思った。


でも――。


肩を抱き寄せてくる手が不快だ。
離れようとした瞬間、聞きたくて聞きたくなかった声が聞こえた。

「離せよ…」
「くど…」
「君には関係ないだろう?」

見せつけるように肩を抱き寄せられて固まった。
こんなとこ見られたくなかった。
そんな思いが胸を交錯する。
でも、昨日あんな醜態を晒したんだから今更かと自嘲気味に笑んだ。
すると。

「関係ありますよ。彼女は俺の−−」
「工藤君?」

俺の何だ?
宮野は俺にとってどんな存在。
自分の気持ちがわからなかった。
けれどこれだけは言える。
かけがえのない大切な人だと。
不思議そうな志保の視線を射抜いて言い放った。

「俺の大切な人だから」
「く、」
「行くぞ」

手を引かれて導かれるように外へ出る。
きゃあっと叫ぶクラスメイトの声を耳にしながら呆然と後に続いた。






「ちょっ、工藤君!」
「何だよ」
「何であんなこと−−」

嬉しかった。
大切だと言ってくれて。
でも、私にはそんなこと思われる資格がない。
はっと我に返ってそう思った。

「俺にとってはお前は仲間だ」
「なか、ま…」
「ああ、だから離れるなんて言うなよ」
期待するんじゃなかった。
もしかしたら同じ想いなんじゃないかって。
馬鹿みたい。
馬鹿だよね、お姉ちゃん…。

「……し、て…」
「宮野?」
「離して!!」

手を無理矢理振り解く。
志保は自嘲気味に笑った。
そんな風に優しくしないで。
何とも想ってないなら触れないで。
期待なんてしたくないから。

「みや…」
「先輩でしょう?言ったでしょう?私とあなたはもう隣人でしかないの」

驚いた顔をして振り解かれた腕を見つめる新一を置いて志保は足早に教室に戻った。
一抹の寂しさを抱えながら――。






「……何で拒絶すんだよ」

何だか妙に哀しくて仕方がない。
確かにあの戦いが終わった今、彼女には普通の生活が待ってる。
でも、何故かそれが嫌だと思った。

「わけわかんねぇ…」

わからないのは自分の心か?
それとも志保の気持ちか?
それさえもわからずに新一は握り締めた手を見つめた。
何故か握り締めた手が冷たい。
振り解かれた腕が胸に痛かった。







return to back or top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -