◇どうして?



放課後――。


志保は数ある誘いをすべて断って帰路に着こうとしていた。
やはり女の子の相手は疲れる。
何故か男子も沢山よってきたが。
志保は気付かない。
自分の外見がどんな影響を周りに与えるか。

「疲れた…」

志保が呟いて校門から出ようとした瞬間、横から手が伸びてきた。
びくりと身が竦む。
でも、聞こえて来た声に力が抜けるのと同時に何故?と思った。

「宮野先輩――」

何故?どうして?と疑問が駆け巡る。
けれど新一はそんな志保に目もくれず、グイッと腕を引いた。
すっぽり腕の中に収まる体に心臓がどくどく早鐘を打つ。
それが新一に聞こえてしまうんじゃないかとそれだけが心配だった。
けれど、新一はそれを緊張してるからだと取ったらしい。
志保に話しかけ来た。

「一緒に帰りましょう」
「……でも、蘭さんは…」

志保はそんな態度の新一に戸惑う。
けれどそれも予測済みだったのかあっさりと言われた。

「蘭たちなら先に帰ったよ…」




家までの道のりをゆっくりと歩く。
それは、なにを考えてるかわからない新一が気になると同時にもっと一緒にいたいという浅はかな願い。
もっと彼のそばにいたい。
もっと彼に近づきたい。
そんな気持ちを抑えるために離れたのに、これじゃ意味がないじゃない。
彼が何を思ってここにいるのか。
頭の中を目まぐるしく考えが駆け巡る。

「ねぇ、宮野先輩」
「な、何よ…」

新一に声をかけられてびっくりする。
考えにのめり込んでしまったみたいだ。
こんなことじゃいけない。
早く彼を彼女に返さなきゃ。
私が、私の罪が奪ってしまった彼を。

「後で家行ってもいいですか?」
「…………別に。勝手にしたら?」

志保はそっぽを向いてそう答えた。
その答えに新一がニヤリと笑ったことにも気付かずに。
何故だか敬語で話す新一が遠く離れてしまったようで寂しい。
それが自分勝手な感傷だとわかってるから余計に――。


−−馬鹿ね。遠ざけたのは私なのに…


目の端が熱くなったのを俯いて隠した。






「失礼します…」

着替えてから予告通り新一が来た。
今日は博士は学会で地方に出掛けている。
何故か二人きりというのに妙に緊張して志保は不機嫌そうな表情をして出迎えた。
そういう志保も現在は部屋着に着替えている。
自分で買ってきたシンプルな服だ。
黒のトレーナーにジーンズ。

「用が済んだら早く帰ってよね」

そんな心にもないことばかり口を吐いて出て来る。
そんな自分が嫌で志保はそのまま自室に下がろうとした。

「待てよ…」
「ちょっ!工藤君!」

踵を返したところを新一に腕を掴まれ引き止められる。
その手を離そうと抵抗しても全く引き離せなかった。
それどころか壁際に追い詰められる。

「なぁ、何で今更離れて行こうとすんだよ」
「私は…」

声が震える。
両サイドにつかれた腕の中で志保は俯いた。
だって私はあなたを不幸にした人間だから−−。
だから、離れないと。
離れたくないと縋りついてしまう前に。

「……許さねえ」
「工藤君?」

志保は漸く新一の様子がおかしいのに気付いた。
顔を上げると新一の蒼い瞳が怒りに染まっている。
それに息を呑んで後退りかけたが、これ以上後ろに下がることができなかった。

「こんな簡単に、俺たちの関係をなかったことにしようなんて許さねえ!」
「……な、何言ってるの?」
「お前が普通の生活を望んでたとしても、俺たちの関係まで変える必要ねぇだろ!」一方的な言葉に志保の肩が震えた。
何で邪魔するの?
あなたの幸せに私は邪魔でしょう?
あなたには蘭さんとの未来がある。
これ以上惨めな思いさせないで。

「−−あなたに何がわかるのよ!!」
「宮野?」

ダメ。
こんなことが言いたいわけじゃない。
でも止まらなかった。
だってあなたが−−。

「私はあなたを不幸にした張本人。あなたは私のせいであんな姿になったのよ!!」
「でも、お前のお陰で元の姿に戻れた」

それでも。
それでも私の犯した罪は消えない。
それは一生の束縛。
志保を苛む罪の証。
これ以上彼の姿を−−幸せそうな姿を見ていたくなかった。

「これ以上惨めな想いさせないで!」
「みや…」

話も聞かずに走り出した。
これ以上みっともない姿見せたくなかったから。
ねぇ、それでもまだそばにいたいと思う私は愚か者?
今だけは何も考えたくなかった。






「−−俺は、…」

傷付けたい訳じゃない。
でも、離れたくもなくて。
結局俺も我が儘なだけ。
心地良い昔の関係が懐かしかった。

「離れるなんて、やっぱり許せねぇよ」


――ごめんな…宮野…







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