◇終わりと始まり



それはすべての終わり。
そして、それと同時にすべての始まりでもある。
コナンと哀は燃え盛る建物を傷だらけで見ていた。

「やっと終わったのね…」
「ああ…」

二人の心情もまったくお構いなしに燃え盛る火。
それに安堵と同時に寂しさが募る。

「これで、元の姿に戻れる」
「ええ。薬ももう出来てるわ」

それはわかってた結末。
彼は彼女の元に戻る。
それが私が願ってた幸せの形。
それだけが、私の贖罪――。
二人はその場からそっと消えた。
まるで初めからいなかったかのように。






冬のしとしと雨が降る日だ。
今日から俺は工藤新一としてまた一年を過ごす。
それに期待と少しの物足りなさを感じながら学校へと足を運んだ。

「おはよう、新一」
「はよう、蘭」

蘭には元の姿に戻って真っ先に会いに行った。
その時見送ってくれた宮野がどんな表情をしてるのかなんて気にしてる余裕もなくて。
ただ、元の生活を取り戻すことに必死だった。
蘭とは未だに幼なじみのような関係が続いている。
それは一番わからないこの心のせいだ。何故か蘭を見てもときめかないのだ。
まるで神聖なものを見てるかのように蘭の涙を見つめていた。

「新一…よかった」

そう泣いてくれた彼女を確かに大切だと強く思った。
けれど、以前のように強く好きだとは思えない。
何故だろう?
新一は不思議そうに首を傾げた。

「新一?どうしたの?」
「何でもねぇよ、蘭」

新一は蘭にそっと笑いかけた。
心配させちゃいけない。
今までたくさん泣かせたんだから。

「そういえばね、三年に転校生が来たんだって」
「転校生…?」

新一はそれに疑問を覚えた。
こんな時期に転校生なんて珍しいというかどう考えてもおかしい。
新一はそれに興味を抱いた。

「美人なんだって――」
「何話してるのよ。蘭」

嬉しそうに話す蘭に、そこに園子がやって来た。
噂好きな彼女は情報を持ってるだろう。
新一は、さっそく園子に問いかけた。

「三年に転校生が来たんだって?」
「なあに。新一君も興味あるの?」
「新一もって?」
「何言ってんのよ。学校中その話題で持ちきりよ。ほら…」

よく聞いてみれば周りもその話題で盛り上がっている。
見に行こうよ!と誘いかける声も聞こえる。

「まったく。本当に人気みたいなんだから、宮野先輩は」

園子の呟きにどくりと心臓が跳ねた。

「………みや、の…?」
「新一君?」

もう園子の声も聞こえてなかった。
ガタリッと席を立つ。
それに慌てたように声をかけてくる蘭と園子にもまったく気付かなかった。
三年のクラスへ行くと、一クラスだけ人集りができたクラスがあった。
そのクラスに新一は人を掻き分けて入り込んだ。

「−−−−宮野!」

クラスの中心で愛想笑いを浮かべている志保を見付けて、新一は叫んだ。
それに、志保がゆっくりと振り返る。

「工藤君…」

がやがやと周りが五月蝿い。
けれど、新一の瞳にはクラスメートに囲まれた志保だけが映っていた。






「どういうことだよ!」

ダンッと志保の顔を囲うように腕を叩きつける。
それに志保は平然とした顔で新一を見つめた。

「どういうことって?」
「だから、何でお前が帝丹にいるんだよ!!」

澄まし顔の志保にけれど新一には余裕がなかった。
何故何も話してくれなかったのか?
それが気になって仕方がない。

「転校して来たからよ」
「宮野!」

怒鳴られて志保の肩がぴくりと跳ねた。
けれど変化はそれだけで、表情はぴくりとも変わらなかった。

「工藤君」
「なぁ、なんで黙ってた?」

志保は答えない。
いや、答えられなかった。

「宮野!」
「……宮野先輩、でしょう?とにかく、あなたと私はただの隣人。それ以上でもそれ以下でもないわ」

その言葉を聞いて、彼女が遠く離れてしまったのを感じた。
この距離が何故か新一にはもどかしい。

「じゃあね、工藤君」

その背をただ見送ることしか新一にはできなかった。






「これでいいのよね…」

工藤君には、蘭さんがいるから。
だから私は、この想いを秘めて離れる。
せめてもう少しだけそばにいたかった。
そう願うのは悪いこと?

「馬鹿ね…。私も…」

馬鹿よ。工藤君――。






「ふざけんなよ」

壁を手で殴りつけた。
許さない。
離れるなんて。
絶対に――。
わけのわからない感情に戸惑いながらそれだけはわかった。
ただそれだけが。







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