◇あなたと…



どこに行ったかわからない志保を全力で探した。
どこだ?
どこにいる?
気ばかりが急いて脳内思考が分散する。

「落ち着け。集中しろ」

自分に自己暗示をかけて固く目を瞑る。
何となくこっちのような気がする。
それに、早く行かなければ取り返しのつかない事態になりそうな予感。
漸く姿を発見した時、新一は走り疲れて汗だくだった。
だが、何よりも胸を締め付けたのが志保の隣に立つ男の存在だった。

「………宮野!」

ありったけの力で名前を呼んだ。




「や、めて……」
「宮野さん?」

やめて!私に優しくしないで−−
温かい平和な日常に、自分の罪を忘れそうになってた。
あんなに言い聞かせたのに。
忘れないって誓ったのに…。

「私は−−」
「………宮野!」

その途端聞こえた叫びのような呼び掛けに、志保はびくりと肩を揺らした。
ここでは聞こえる筈のない声。
口を開こうとした瞬間、横で須藤が動いた。

「また君かい?」

新一と須藤が対峙する。
両極端な意思を持って。

「言った筈だろう?曖昧な気持ちならつきまとうなと」
「曖昧な気持ちなんかじゃねぇよ」

否定した新一に須藤は驚きの表情を向けた。

「じゃあ、何?」
「俺は…」

新一が想いを口にしようとした瞬間、志保が動いた。
それに二人の意識が逸れる。

「宮野さん?」
「宮野…!」

須藤の手が志保に触れた瞬間、均衡が崩れた。




どこか遠くから名前を呼ぶ声がする。
お願い。
もうやめて。

逢いたくない
見たくない
知りたくない
もう私に構わないで−−

耳を塞ごうとした瞬間、腕を掴まれて咄嗟に振り解いた。

「もう私に構わないで!」

ありったけの声で叫ぶと駆けだしていた。
何が何だかわからなくて混乱する。
どうしたらいいのかわからなかった。
ただ世界のすべてに絶望した。




志保のすべてを拒絶する姿にびっくりした二人は駆け出した志保を止めることができなかった。
何だか嫌な予感がする。
新一の体は自然に動いていた。
志保を追って。

「宮野!」

後ろから「宮野さん!」と追いかけてくる声を無視して消えそうな背をただ見つめた。
もう大切なものをなくしたくないから。
あいつが−−宮野が大切だって気付いたから。
だから、答えてくれ。

「俺は、」

本当はこんな形で告白したくなかった。
でも、それじゃあ志保を失ってしまいそうで。
ありったけの想いを込めて告白した。

「俺は宮野が好きだ!」
「……ぇ?」

思わず足が止まった志保の腕を掴んで力一杯抱き込む。
もう逃げてしまわないように。
心臓がばくばくと脈打つ。

「聞いてくれ」
「…………」

何も言わない志保に肯定と取って話を進める。

「確かに俺は蘭が好きだった。大切だったし、今でも守りたいと思ってる」

それは偽りようのない事実。
ずっと、そう思い続けていたから。

「でも、それは親愛の情で。気付いたんだ。さっき蘭に告白されて。俺が好きなのは宮野だって…」

さっき漸く気付いた。
ずっともやもやしててわからなかった感情の意味が。
俺は、ずっと前から宮野のことが好きで、だから気になって仕方なかったんだ。

「もし、オメーに迷惑じゃなかったら…付き合ってくれないか?」

志保の肩が目に見えて震える。
この告白にどう答えてくれるのか不安で仕方なかった。
すると、志保が叫んだ。

「嘘よ!!」

絶対嘘だ。
工藤君が私を好きになる筈がない。
だって私は−−。

「あなたが、私を好きになる筈ないじゃない!!」

混乱して叫んだ私に、それでも新一は笑って言ってくれた。

「何でだよ?俺がお前を好きになるのは必然だろ?」
「必然…?」

新一の言葉に頭が真っ白になった。
ねぇ?信じてもいい?
私、あなたが好きなの。
ずっとずっと前から好きだった。
胸の奥に秘めてた想い。
素直になってもいいの?

「だってオメーは俺に光をくれたから…」
「………っ…」

そんなことない。
寧ろ私の方が沢山光を貰った。
温かくて、汚れた私を包み込んでくれる光を−−。
だから、惹かれたのだ。

「−−私だって…」
「宮野?」

どうして気付かないのだろう。
こんなにあなたのこと想っているのに。
私はいつもあなただけを見つめてきた。

「……すき」
「ぇ?」

驚きに見開かれた新一の瞳。
その腕の中に志保は飛び込んだ。

「あなたが好きよ…」
「本当に?」

びっくりした様子の新一に少し笑って志保は背伸びした。
唇が軽く触れ合う。
最初のキスは優しい空気に包まれていた。

「……宮野」
「これでわかった?鈍感な探偵さん」

撃沈した新一に志保は笑みを見せた。
久しぶりに浮かんだ笑顔。
今までで一番綺麗で素敵な――。



そんな志保に今度は新一から口付けを贈った。





「なあ…」
「どうかした?」

あれから1ヶ月くらい経ち卒業した志保の門出を祝っていた新一はふと疑問を覚えて志保を見つめた。
この人が自分のものだと思うと胸が苦しくなる。
本当にこれで良かったのかと不安になる。
けれど、工藤君が選んでくれたんだから。
だから信じたい。

「いつから俺のこと好きだったんだ?」
「内緒」

唇に人差し指を当ててそっと微笑んだ。



FIN




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