◇言いたかったのは何ですか?



「宮野先輩」
「……工藤君」

裏庭に佇んでいた志保が新一の声に振り返る。
それを眩しげに見つめながら新一は志保ににこりと笑いかけた。

「風邪引きますよ、こんなところにいると」
「平気よ」

素気なく返されて新一はため息を吐く。
本当に素直じゃないんだから。
指先を擦り合わせている志保にそっと近寄って手を取って握り込み擦る。
息を吹きかけると小さく手が震えた。

「くど…」
「平気……じゃないでしょう?」

新一の言葉にどくりと胸が軋む。
聞きたくないと思いながら、聞きたいと望む自分がいる。
それに志保は戸惑った。

「平気なら、こんなにならない」
「そんなこと…」

ないと言える?
あの日、工藤君に抱き締められた時胸が温かかった。
あの時自分は確かに喜んでいたのだ。
工藤君に抱き締めてもらえた幸せに。
だからそれが壊れるのが怖くて逃げ出した。
卑怯なのは、私自身だ。
“ごめんなさい”
心の中でそっと呟いた。

「…………戻りましょう」
「そうですね」

少しだけ敬語で話されることが哀しかった。
自分が仕向けたことなのに。
それが、本当に時々寂しい。
ねぇ、あなたは聞いたわね?あの日私があなたにとってどんな存在か。
でも私には被害者と加害者の関係以上の関係を見つけることができなかった。
それは、あなたにしかわからないことなの。

「工藤君…」
「何ですか?」

振り向いた新一にそっとそっと問いかけた。
今度は私から――。



「あなたは、私にとって何?」
「…………え?」

新一が驚いたように目を見張る。
まさかそんなこと聞かれるとは思わなかったとでも言うように。

「戦友?親友?あなたの答えは何?」
「そ、れは…」

言いよどんだ新一に志保は哀しげな笑みを浮かべた。
それが周りから見たらすごく痛いのだけど本人にはわからない。

「答えられないでしょ?ねぇ、工藤君」

人の考えは、他人にはわからないのよ――。




何も答えられなかった。
俺は宮野に一番してはいけない質問をしたんだ。
それが悔やまれてならない。

「行きましょう」
「はい…」

ただ呆然と答えて足を動かした。
志保が不思議そうに見つめてくる。
そんなにおかしいだろうか?
何が何だかわからなかった。

「み……」

そんな時に限って邪魔者は来るものだ。
何てセオリーな奴だろう。

「宮野さん!」
「………須藤君」

志保は新一へと向けていた視線を須藤に移した。
それに若干の苛立ちが新一の胸を支配する。
そいつと一緒にいて楽しいのか?とか、何でそいつを見るんだよ…とか。
こんな自分が醜いと思った。
この胸を過ぎる感情に名前さえつけられずに−−。

「良かった。探したんだよ…」
「何か用?」

志保が不思議そうに首を傾げる。

「次移動教室だから、一緒に行こうと思って」
「一人で行けるわよ」

さらりと流す志保に新一は安堵を覚えた。






さっきから何だか工藤君の様子がおかしい。
どうしたんだろうと考えてきっとさっきの話のことだろうと当たりをつけた。
できれば気にしないで欲しい。
私はそんなこと望んでないから。

「宮野さん!」
「…………え?」

気付けば腕を掴まれていた。
たじろいだがすぐに振り解こうとする。
だが、須藤も簡単には諦めなかった。

「一緒に行こう」
「……先に行ってて」

今は何よりも新一のことが気にかかる。
それでも諦めない須藤にいい加減志保が痺れを切らした瞬間、横から手が伸びてきた。

「嫌がってるじゃないですか…」

新一の手が志保を自由にする。それでも新一はどこか元気がなかった。
須藤がそんな新一を嘲笑う。

「邪魔しないでくれと言わなかったかい?」
「頷いたつもりはありませんよ」

確かに新一は頷かなかった。
けれど、何の話をしてるのだろう。
それが志保にはわからなかった。

「じゃあ、宮野さんに決めて貰おう」
「…………え?」

まさかそこで呼ばれるとは思わなくて志保は驚きの声を上げた。

「宮野さんは僕のこと迷惑?」

答えて良いものか悩んでいると、丁度いいタイミングでチャイムが鳴った。
それに志保は咄嗟に動いた。
とにかく今は話を逸らすしかない。
工藤君のことは後だ。

「先行くわ」
「宮野さん!」
「宮野先輩…」

追いかけてくる声を振り切って走り抜ける。
それにしても大丈夫なのか?
新一のことが心配だった。






「まったく。君は本当に僕の邪魔をするね…」

志保の後ろ姿を見送った後、須藤が嫌そうに新一を見た。
いつもの新一なら流せたかもしれない。
けれど、今は自分の行動に自信がなかった。

「僕は言った筈だよ。何とも思ってないなら邪魔しないでくれと」
「何とも思ってない訳じゃ…!?」

じゃあどう思ってる?
宮野にとって俺は何?
相棒だって本当に言えるのか?

「じゃあどう思ってるんだい?」
「それは……」
「答えられないならその程度の想いなんだろう?もう来ないで欲しいね」

そう言って勝ち誇ったように去って行く須藤に何も言い返せなかった。







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