◇逃げてたのは私だった



蘭さんも一緒だったの?
それは聞けない問い。
聞くことができない問い。

「じゃあ行きましょうか?」
「うん!!」

いつの間にか話が進んでいて急に新一が歩き出した。
バランスを崩して志保が倒れかかる。

「きゃっ…」
「宮野さん!!」

悲鳴が聞こえる。
ぶつかる、と目を閉じた瞬間に温かい温もりに包まれた。
何時までも来ない衝撃にそっと目を開くと見えてくる腕。
志保は新一に抱き留められていた。

「ぁ………」
「大丈夫ですか?」

密着した身体に胸がドキドキする。
気付かれたくないと慌てて離れた。

「ありがとう」
「どういたしまして」

さっきまでの物思いが新一の笑顔に吹き飛ばされて行く。
胸の中が温かくなって泣きたくなる。
けれど、弱いところなんて見せられないからぐっと我慢する。
泣かない。
私に泣く資格なんてない。

「じゃあ行きましょう」

伸ばされた手を取ってしまった。






お化け屋敷は何故か知らないが新一と志保が半ば強制的に美絵たちによって中へと追いやられた。
須藤だけが文句を言ったがさらりと無視されて。

「ねぇ、さっきから何で私が工藤君の隣なのよ」
「俺は嬉しいけど…」

新一がそう発言するのを無視して志保は疑問を投げかけた。
そうなのだ。
さっきから乗り物に乗るごとに毎回隣同士。
嬉しいけれど若干戸惑う。

「だってね…」
「お似合いなんだもん」
「ね〜!」

その言葉に志保の胸がズキリと痛む。
お似合い?
私たちが?
そんなことあるわけがない。
誰よりも光が似合う人。
闇の私が釣り合う筈がない。
けれど志保はわかっていなかった。
光と闇は表裏一体だと。

「そんなこと…」
「綺麗な宮野先輩とお似合いだなんて嬉しいです」

ないと言おうとしたら新一に遮られた。
手を握る力が強くなる。
どうして彼は気付いてしまうんだろう。
私の弱い心に。
志保は静かに俯いた。

『オメーは綺麗だよ…』

小さい頃の彼の声がふと蘇った。
私を−−私の心を綺麗だと言ってくれた少年。
ほら、今もこうして私を守ってくれる。

「宮野先輩」
「宮野さん!行こうよ」

道が開けた気がした。この手はもう汚れてなんかない。
だってあの純粋な少女が握ってくれた手だから。
もう怖くない。
美絵に手を取られても全く拒絶を感じなかった。




怖かったの−−

私が大切な人を汚してしまいそうで…。
でも、それは逃げ。
私へと手を差し伸べてくれている彼らへの冒涜。
私はいつの間にかまた殻に閉じこもって私を守ってくれた人たちを傷付けてたんだ。
何でこんなことにも気付かなかったんだろう?

「宮野さん?」
「宮野…………先輩」

触れられた手に驚いた表情をする美絵と新一。
きっと気付いていたのだろう。
私が怖がってたことに。
ありがとう、ありがとう…。
今伝えるわ。

「ありがとう…」

一瞬驚いた顔をした後、新一と美絵は顔を見合わせて笑った。
それはとても嬉しそうな笑顔。

「ああ…」
「どういたしまして」

今度会ったら、あの小さな仲間たちにも伝えよう。
私を慕ってくれる無邪気な彼らに。
心からのありがとうを…。

「宮野さん、次は私と一緒に乗ろうね」
「みんなで行ってくるといいですよ」

新一はそう言って笑った。
彼は私のことをどう思ってるんだろう?
ふと、またそう思った。







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